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2018年8月16日Award News

「Tokyo Midtown Award」10周年を記念するパブリックアート恒久設置のコンペ「The Best of the Best TMA Art Awards」グランプリを決定する熱き審査会をレポート!

ファイナリスト6名によるプレゼンテーション

桝本佳子《Border to Border》

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用途から生まれるかたちである「器」と、器に施される「装飾」のバランスを壊し、使われないがあくまで器のかたちをした「器であって器でない」ものを生み出してきた桝本佳子。2008年のコンペ受賞後に欧米で半年ずつ滞在制作を経験し、その間、明治期のものをはじめ、大量に欧米に輸入された日本製を含む東洋陶磁器が暖炉の上や壁面にシンメトリーに飾られている光景に惹かれたといいます。そこから「今回の『ハイブリッド・ガーデン』というテーマと絡め、欧州が日本・中国・韓国の真似をして、お互いの交流し発展していった歴史から発想を広げました。青と白の半磁器か磁器を制作し、壁面を貫くように配置した作品をつくりたい」とプランを語りました。渡り鳥の図柄は、海を越えることを象徴しています。工芸や装飾というカテゴリーの範囲を超え、アートファン以外にも興味を引きそうな作品でした。

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審査員からは、磁器の色の変化、壺などの重量のあるものを浮かして固定する構造や強度、壁面を覆うガラスについての質問があがりました。また、鳥と壺の位置関係、絵柄や配置などから読み取れるストーリーがあったほうがいいのでは、という提案や、オフィスエリアに設置される作品ということから、鳥の飛ぶ向きを右肩上りにしてはどうか、といったアドバイスも飛び交いました。

小松宏誠《Light Wings》

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「浮遊」への興味から、15年間にわたり、鳥の羽根を用いた作品を制作している小松宏誠。その多くは室内作品で、素材が軽いので空調や吹き抜けの風、人の動きや環境などによって動き、光によって見えかたも変わります。今回は「鳥の羽根と向き合って生まれたノウハウを、人工的な素材で再構築するチャレンジを行いたい」とプランを語りました。人間が生み出してきた素材や手による思考を大事にしてきた小松は、軽量で強いカーボンロッドをフレームとして、薄いポリカーボネート塩ビ製の羽根を広げ、壁からアームを出し、複数の回転部を持つモビール構造を考えました。発光しているかのような白い壁面に、黒く細い線の集合体で華やかさと迫力のあるボリューム感を出し、生命力を表現。現場調査をして風向きが細かく変わることや、人との距離が近いことがわかり、小さな集合体でつくるなど、展示場所の実情に合わせて、1次審査を通過したプランに改良点を加えてきました。

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審査員からは、新素材を使用するため、強度や構造についての質問があがり、人の動きによって生まれる風で作品が反応するという、パブリックアートとしての素晴らしさの反面、「通行人に触られそうなので、作品をどう守るか」という指摘がありました。「動くだけ動かし、触ることは当然としてつくってしまったほうがいい」という意見も出ました。

石山和広《絵画からはなれて[磊](らい)(仮)》

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写真を用いて絵の歴史をふまえながら平面作品を制作している石山和広。写真は記録としてありのままを写すものという考え方もある一方で、石山は、新たなイメージが立ち上がるものと捉えて作品制作を行っています。また、自身の育った山形および東北のアニミズムや神道、仏教の思想と美術表現のリサーチのため、日本各地とアジア各国を1年周遊した経験も持ちます。

今回は「山頂の石ひとつひとつが読み取れるほどの高精細写真を制作する」というプランを発表しました。高精細画像のデジタルカメラで複数枚撮影し、それをひたすら慎重に重ねて30億万画素の画像を制作するという現代の写真技術の極みを利用した作品。会場では実際に制作された作品を公開し、「再制作してさらに精度を上げたい」と語る石山は、「ハイブリッド・ガーデン」というテーマに基づき、日本書紀に登場する、日本で最初に庭をつくったとされる蘇我馬子の石庭から、山からの砕石によるコンクリートでできた都市のビルまでを想起させる、石を山に見立てた作品を提案しました。

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高精密な作品模型に近寄っていく審査員。具体的な登山計画も含めた撮影から画像の制作、印刷、退色しないかという保存の問題まで、細かい質問がありました。「高精細画像にすることによって、見る人に何を感じてほしいか?」という質問に石山は、「テクノロジーの対極にある大自然を楽しんでほしい。近寄っても細部が見える違和感を感じてほしい」と回答。肉眼では得られない、すべてにピントを合わせた圧倒的な写真作品になりそうです。

大村雪乃《百円の夜景》

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都心の夜景を、丸シールを貼り詰めた平面作品で表現している大村雪乃。「百万ドルの夜景」といわれるイルミネーション輝く都会に対して、1シート100円の文房具シールを大量に用いることで、大量消費社会への警告も表現しています。そのシンプルなアイデアによる作品は、子どもからお年寄りにまで楽しまれています。今回は「ヘリコプターをチャーターしてカメラマンを同行、六本木周辺の夜景をマクロな視点で撮影した空撮遠景写真を使いたい」とプランを語りました。「ハイブリッド・ガーデン」というテーマに対しては、夜景が象徴する多様な人々のエネルギーを光の粒子の集合体として表現すると同時に、いままで美しいと感じてきた景色に違和感を投じることにもなる両義的な作品となる、とプレゼンしました。

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細かく模型を確認する審査員。シールの耐久性や退色についての質問には、コーティングやこれまでの事例をあげながらの回答がありましたが、持参した参考作品のほんの一部にすでにシールが剥がれている部分が。大きなサイズのパブリックアートとして成立させるには、メーカーとの協働など耐久性の研究が必要ではないか、などの指摘がありました。

渡辺元佳《Moon moon》

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6名のなかで唯一、設置場所に、屋外の「ミッドタウン・ガーデン」を選んだ彫刻家の渡辺元佳。「ハイブリッド・ガーデン」の「月の庭園」というテーマから、「月の庭で月を探す」というコンセプトを発想し、長谷川等伯の「猿猴捉月図(えんこうそくげつず)」のように月をとろうとする3体の類人猿の彫刻を設置するプランを提案しました。ブロンズ鋳造の彫刻は、鋳物の町、富山県高岡市で制作。ガーデンへの導入・見送りの案内役として、人々と環境とをつなげる具象的な彫刻がふさわしいと考え、動物と人間の中間的な存在であるチンパンジーをモチーフとして採用しています。「猿猴捉月」とは、身の程をわきまえず、能力以上のことを試みて失敗することの例えですが、荒唐無稽に思えることを恐れずに行うことはクリエイティブの出発点であるという強いメッセージが込められています。

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審査員からは、「月を取ろうとする猿。絵の中では成立するが、月の位置と猿の彫刻の指差す方向が一致するときがあるのか?」「金箔やステンレスの鏡の輝きの耐久度」について質問があがりました。ミッドタウン・ガーデンという場所は常に人の往来があり、作品に触れる可能性があること、並行した道路沿いには、多くの住宅があるという観点から、チンパンジーが持つ棒は危険ではないか、鏡を外に設置する際に、住宅街に反射しないよう角度を考える必要がある、という重要な指摘もありました。

FUKUPOLY《ASPECT》

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「ハイブリッド・ガーデン」というテーマに対し、水というキーワードでプランを発表した映像作家でVFXアーティストのFUKUPOLY 。液体と重力(位置エネルギー)によって動作する「ししおどし」から発想を広げ、時間の経過とともに重力の方向が反転する液体CGアニメーションによる現代版「ししおどし」を制作するプランを発表しました。その姿は、「方丈記」の「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」という一節のような「生々流転」を表現しています。

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審査員からの「これは長編ムービーなのか。同じものがリピートするのか」という質問にはランダム再生であることを説明。7万5000時間もつという回答でしたが、機材が変わったときのメンテナンスについて細かく質問が出ました。「ナムジュン・パイクのメディアアートのように、古いままレトロな感じで、その時代性を面白がらせる方向もあるが」という提案に対し、「やはり最先端の技術を使って表現したい」というFUKUPOLY 。また、「ミルクっぽくて水に見えない」という指摘もあがりました。