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2018年8月16日Award News

「Tokyo Midtown Award」10周年を記念するパブリックアート恒久設置のコンペ「The Best of the Best TMA Art Awards」グランプリを決定する熱き審査会をレポート!

最終審議

6名全員のプレゼンテーションを終えた後、最終審議を実施。恒久設置するパブリックアートを制作するにあたって審議のポイントとなったのは、耐久性とクオリティ。6つの審査基準に合っているかを踏まえながら、審査員のなかでも評価が分かれ、意見が拮抗していきます。

いずれの作品も、パブリックアートという特性上、搬入や設置、メンテナンスなどが細かく検討されました。例えば「最先端のテクノロジーを使用する作品やキネティックな動く作品をどう考えるか」という問題が討議されました。さらには、メディアアートが、テクノロジーの進化によって古くなったときにどう対処していくべきか、海外の事例も参考に、その考え方について議論が尽くされました。

こうして予定時間を越えてのディスカッションの末、「これまでの東京ミッドタウンのパブリックアート作品に加わる、全体のアートディレクションとして見てもバランス的に申し分ない」と判断された、石山和広の《絵画からはなれて[磊](らい)(仮)》が見事栄えあるグランプリに輝きました。

<石山さんの作品模型写真>模型写真⑤

石山の作品については、「インクジェットプリントの耐久性は約200年」という点が作家から提示され、なおかつ審査員からは、「10年、20年眺めていて飽きない、長い時間の鑑賞に耐えうる作品なのではないか」、「働く人たちが出入りする重要な場所なので、気持ちよく入って行ってほしいと考えると、石山の写真は自然でもありながら清涼感ももっている」という意見があがりました。
また、「石山は、作家のスタイルがまだ確立していないように見える」という意見に対し、「これだけのスケールの作品を実現させたことで転換点、代表作になる可能性があるのではないか」という期待の声もあがりました。

総評

審議を終え、審査会場へ再び全作家を招集します。Tokyo Midtown Awardから生まれた才能ある作家たちの未来に向け、長年審査を務めた審査員から、審査結果と講評が伝えられました。熱のこもった作家の目が記憶に残ります。

<最終審議風景>19 <最終審議風景>20

児島やよい

6名の方の実力が拮抗していて、審査は難航しました。その中で、Tokyo Midtown Award 10年の節目に、これから10年、20年と展示される作品としては、石山さんの作品がふさわしいという意見でまとまりました。個人的には、選ばれなかった5名の方の作品も、ぜひ何か機会があれば、展示してみたいと思います。そのくらいレベルの高い作品ばかりでした。プレゼンの準備には多くの時間と労力を割かれたと思いますが、この経験を今後の作品に生かしてくださることと期待しています。

清水敏男

すでに作家として活躍されている有資格者が対象のコンペであり作品案の質は高かったが自分の作品の良さを認識していない例が目立った。恒久設置であることと場所に制限がある、という与条件に自分の作品の良さをかけ合わせて作品案を作るという作業、さらには明確なコンセプトを打ち出す必要性と、総合力が要求される。パブリックな場所に恒久設置することはおそらくあまり経験がないと思われるので多くの作品案でほころびが見られたのは残念でした。そのほころびが致命傷になるのがパブリックアートです。本来は若い作家がこうした仕事を実現していく中で作品のコンセプト、質を高めていくことができれば理想的ですが日本ではチャンスが限られているのが残念です。今回の作業を糧として今後の活躍に役立てることを期待したい。

土屋公雄

審査は拮抗しました。みなさんも苦労されたと思いますが、今回のコンペは、従来のテンポラリーのものではなく、パーマネントの作品案を選ぶというところで、我々もかなり議論を重ねました。
恒久性・安全対策の問題等、作品表現以外のところも問われることがあり、それらをクリアしながらパブリックアートは成立させていくものです。
作家の想いだけでは作品は成立しません。
そういった点で、今回グランプリを受賞した石山さんの作品は対応してくれると感じています。
パブリックアートを考えることは難しかったと思いますが、今回に懲りずに、今後ともぜひ挑戦していただきたいと思います。みなさんの作品をこれからも楽しみにしています。

中山ダイスケ

審査員それぞれのパブリックアートに対する考え方が多様であったため、提案されたプランが、どのように「パブリック」で「アート」として成立するのか?という点で審査会が徹底的に割れました。個人的には「パブリック」によって命を抜かれたアートには批判的で、ギャラリーという特殊空間で作品に接することの方が自然に見える作家には気の毒だったように思います。今回の応募者には「職業モニュメント作家」がいなかったことで、最終選考に残った作家たちの多くが、安全性と維持管理のしやすさを指摘されすぎて、自身の作家性とのバランスに苦慮しているようにも感じました。私が興味を抱いたのは石山和広氏とFUKUPOLY氏の作品でした。それぞれに公共空間に対する思想があり、場所性に切り込んだ攻めの作品だと感じたからです。

八谷和彦

みなさん作家として確立された方々なので、その点では誰が選ばれても安心できる感じではありましたが、最終的には耐久性や安全性と安定性、それに現場に問題なく搬入ができるかどうかなど、非常に細かい点を含めた協議の結果、グランプリが決定しました。
個人的には、このような非常に長期の展示が前提の場合、メディアアート系の作品は選ばれにくい傾向がありますが、世の中にはこのような形式の作品も増えていることだし、部品ストックや仕様書による改良も含めた対応なども考え、検討する必要があるとあらためて感じました。
ともあれ、2次審査に向けて全力で試作品やマケットを作っていただいた作家の皆さんには感謝してもしきれません。皆さんの作品をまたどこかで拝見することを願ってやみません。

中村康浩

なかなか一つの作品に決めることが難しく、審査中は恒久設備に対する主催者側の覚悟を問われる場面も多くありました。それなりに覚悟していたつもりなのですが、やはりアートという観点と、日頃施設全体の運営からの観点を考えると難しいところもありました。どの作品も東京ミッドタウンという場所をよく考え抜いてくださっていたと思います。パブリックアートを増やすことで、街が豊かになると思いますので、今後もこのような機会を創出していければと思います。

「テクノロジーの進化が作品の寿命に影響を及ぼす可能性のあるメディアアートは、パブリックアートとなりうるのか」など、アート業界でも今日論点となっている、アートとテクノロジーの関係性の議論により多く時間が割かれたりなど、時代性も反映された最終審査。
グランプリに選出された石山は、「見る人が関心をもって写真のなかの世界に入っていけるようにつくりたい」と語ります。実際の山で見るリアリティとはまた別のリアリティに息をのみそうです。2019年3月に、東京ミッドタウンに作品が現れる日が、早くも待ち遠しくなってきました。

(取材・文:白坂由里、写真:堀口宏明)