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虚構と現実、物質とイメージに視覚で挑む

アーティスト 鈴木 一太郎/Tokyo Midtown Award 2013のグランプリを受賞した鈴木一太郎さん。大学院を卒業してからはアーティストとして本格始動し、現在は郷里の岐阜県加茂郡坂祝町のアトリエを拠点に活動している。「Tokyo Midtown Awardがさまざまな気づきをもたらしてくれた」という鈴木さんに、自身の活動とTokyo Midtown Awardについて話を聞いた。

「単眼的風景:Gruppo del Laocoonte」(2013年/杉材、コンパネ、アクリルペンキ)

インタビュー・テキスト 吉原佐也香

―― 制作活動の軸となっているテーマは?

鈴木:ひとつが「バーチャルと彫刻」です。制作では常に現実と虚構を考えながら制作しています。情報化社会のなかで生きている僕らは、意外と本物の彫刻を見る機会は少ないように思います。それよりも写真やインターネット、テレビなどで目にする機会のほうが圧倒的に多いですよね。彫刻を学んでいた僕ですら、本物を見た経験は決して多くはありません。ということは皆、彫刻というものを実在のものから得た実感としてではなく、紙媒体や映像を通したイメージとして捉えていることが多いのではないかと思ったのです。それでいわゆる立体感というものを物質で表すのではなく、頭のなかで視覚的に想像させるという手法で作品制作をするようになりました。

―― そもそもなぜ彫刻をはじめたのですか?

鈴木:今はインターネットやメディアでさまざまな情報にアクセスすることができます。そのなかで絵画や写真や映像はそういうメディアに馴染んでくれるので、あまり変換しなくてもダイレクトに伝わってくれます。彫刻はそうはいきません。平面に変換されてしまうと本来の良さを失ってしまうからです。それが逆に面白いし、だからこそ強く訴えかけることができる表現だと考えています。

―― 今のような手法に至ったのはなぜ? いつ頃からですか?

鈴木:大学院に入ってからでした。学部を卒業するころから「ふつうの彫刻をつくっても僕の表現にならないんじゃないのかな」と思い始め、自分の趣味を基点にしようと、趣味のゲームに手がかりを探しました。昔のゲームのようにドットの粗いモノが好きだったこともあり、ドットで何かできないかとやりはじめ、あるとき昔の彫刻をドットにして制作してみました。すると近くから見ればドットの集まりなのに、遠くから見ると普通の彫刻と見え方があまり変わらないことに気づきました。人間は常に目を通してものを見ているので、視覚的に同じ効果が表せるのなら実際には立体でなくても頭では彫刻と認識できるわけです。これは面白いな、と思いました。

「単眼的風景:David」ドット×神話による初めての作品

「単眼的風景:David」ドット×神話による初めての作品

「Leo/レオ」

「Leo/レオ」

―― なぜ昔の彫刻をモチーフに?

鈴木:昔の彫刻をモチーフにすれば、今の彫刻観と昔の彫刻観がどれだけ変わったかをより表しやすいと考えたからです。一種のアンチテーゼとして古代彫刻を引用したわけです。それに古代の彫刻はみんなどこかで見ていますから、「彫刻ってこんなに変化してきたんだ」とわかりやすく伝えられるのではないかと考えたからです。

―― Tokyo Midtown Award受賞作もその一連だったわけですね。

鈴木:そうです。「単眼的風景:Gruppo del laocoonte」はトロイア戦争の神話を基にした彫刻、ラオコーンをモチーフに選びました。コンペのテーマが「都市」でしたので、都市と関係のある神話を引用することにしました。都市にまつわるちょっと悲しい話だったのですが、震災や原発事故などが起こった日本の都市とイメージが重なるところもコンペのテーマに合致すると考えました。群像彫刻ですのでビジュアル的な迫力もあるし、意外とみんな知っている神話からの引用だからコンセプトも伝わりやすいですし。

「ラオコーン」(制作年不明/大理石/バチカン美術館収蔵)

「ラオコーン」(制作年不明/大理石/バチカン美術館収蔵)

「単眼的風景:Gruppo del Laocoonte」図案

「単眼的風景:Gruppo del Laocoonte」図案

―― Tokyo Midtown Awardに応募したきっかけは?

鈴木:コンペに応募すること自体が初めてでしたが、前年度の準グランプリ受賞者の宮本宗さんが大学の先輩だったので情報があったことが大きかったです。プロセスも拝見できましたし、お手伝いもしました。ちょうど卒業後にどういうステップを踏めばアーティストになれるかと考えていたときだったので、「じゃあ、僕も応募してみようかな」と。

―― 応募してみていかがでしたか?

鈴木:とにかくいい経験になりました。まずは書類選考の1次審査でコンセプトを説明する重要性を痛感しました。書類だけで「こんな作品になりますよ」と伝えなければいけないのがたいへんでしたね。コンセプトの重要性はそれなりに理解してはいたのですが、それをどう深めて人に伝えればいいかについては、あまり詰めてやったことがなかったんです。それを伝えることの大切さをこのプロセスを通して学んだように思います。

―― コンセプトという軸は、特に現代美術では問われることが多いですからね。

鈴木:コンセプトについて審査のとき以上に深く考えさせられたのがハワイ大学のアートプログラムに参加した時でした。実はグランプリの副賞としてハワイ大学のアートプログラムに招待していただいたのです。実際の大学の授業に参加したのですが、コンセプトを発表している学生に対して先生がものすごく厳しく追及していて、コンセプトをきちんと説明できなければ作品として認められないという雰囲気でした。アメリカの美術界でいかにコンセプトが重要視されているか目の当たりにした瞬間でした。

Tokyo Midtown Award 2013応募時の書類

Tokyo Midtown Award 2013応募時の書類

「単眼的風景:Gruppo del Laocoonte」(2013年/杉材、コンパネ、アクリルペンキ)

「単眼的風景:Gruppo del Laocoonte」(2013年/杉材、コンパネ、アクリルペンキ)

―― ハワイ大学のプログラムはいかがでしたか。

鈴木:とても勉強になりました。授業に参加するだけではなく、自分の作品について、教授や学生の前でレクチャーするというのがメインのプログラムでした。とても良い友人もできて、今でも、アメリカと日本の文化の違いを話したり、ハワイだけでなくアメリカ本土の美術界の状況なども教えてもらっています。いつか世界に出ていきたいと思っている僕にとっては、外に出たときにどういう考え方をもって制作していけばいいかを真剣に考える機会になりました。ほんとうに有意義なプログラムだと思います。

ハワイ大学プログラム参加の様子

ハワイ大学プログラム参加の様子

―― ありがとうございます。ところで書類選考の次は2次審査ですね。

鈴木:モックアップの提出でした。短い制作期間で仕上げなければならず、しかも僕の場合はサイズは小さくてもその作業量はほぼ本番と同じです。木材を切って色をつけ、約1万個のピースを積み上げるのにほとんど不眠不休で取り組みました。

―― 1万個ですか?! それはまたすごい数ですね。

鈴木:色は7色ですが、表裏貫通しているピースなので、表と裏の色の組み合わせで言えば7×7で49パターンになります。それをひとつずつ設計書を見ながらつくるんです。表裏一体にせずに表面にピースを貼りつける方法ならもっとずっと簡単でしょうが、それでは彫刻としての物質感や迫力は生まれてこないので。

―― その努力が報われたわけですね。最終審査の実制作では?

鈴木:1次、2次のプロセスで、設計も検証もほぼすべて済んでいますのでとにかくあとは作業あるのみ。ありがたいことにTokyo Midtown Awardでは制作費をいただけるので、まずは必要な工具と材料を買いそろえました。あとはひたすら作業です。木材を切り、表面処理をし、塗装をするという作業をピースの数だけこなします。それをパーツごとに組み立てて接着してジョイントをつけ、完成した約50の部品を最後に会場で組み立てました。

制作風景

制作風景

―― 作業量が半端じゃなさそうですね。

鈴木:後輩たちに手伝ってもらいました。僕も先輩たちの制作を手伝ってきていろいろ学んできたので、同じように後輩にも現場でなにか得てもらえればいいと思いました。それになにより大きな彫刻は一人では何もできないと感じることが多いんです。彫刻には共同作業が欠かせないんですね。

―― 1次審査から受賞までかなりの長丁場です。総括するとしたら?

鈴木:プロセス全体を通して、「社会のなかで芸術に求められているものとは何か?」ということを強く考えさせられました。公共の場に展示するからには見る人たちが楽しんで、興味を持ってくれる作品でなければなりません。作品をつくるということは自己表現ですが、コンセプトから深く考えられていなければほんとうの意味で人の共感を得ることはできないように思います。もちろん作品自体に強い求心力があることも欠かせませんし、二つを両立させることがなにより重要だと感じました。なにを伝えたいのか、どう伝えるのか、その訓練をもっともっとしていかなければいけないと痛感しました。

―― 先輩として、Tokyo Midtown Awardに挑戦する方々にアドバイスを。

鈴木:やはりなにより重要なのは自分の表現の軸だと思います。アワードやコンペに応募していると、それぞれのテーマに合わせようとして、いつの間にか少しずつ自分の表現を修正するようになり、結果として元来の軸から脱線してしまう危険性があるように感じます。僕の勝手な印象ですが、今回賞をいただけたのは、そうした無理な修正をせずに、あくまで自分がやりたい表現のなかでテーマを捉えてコンセプトをつくりあげたからではないかと思っています。

―― 今年からはテーマ設定がなくなりましたので、自分のコンセプトを打ち出しやすくなるかもしれませんね。

鈴木:そうですね。なによりもまずは自分の軸が必要です。自分勝手すぎてもダメだし、自分の気持ちに嘘をつきすぎてもダメ。そこを両立できるコンセプトを考えることが重要だと思いました。ブレずに自分に負荷をかけていかなければならない。そのためにも、まずは自分の表現を見つけることだと思います。

―― ご自身のこれからについてはどう考えていますか?

鈴木:虚構と現実、物質とイメージについて、視覚を軸にしながら表現し続けていきたいと思います。2014年4月の六本木アートナイトのTokyo Midtown ストリートミュージアムではインスタレーションを軸にした作品に挑戦しました。ドットのシリーズが彫刻という“量塊(マッス)”を表現しているとしたら、ストリートミュージアムで試みたのは多重性のある空間の“広がり”を表現した作品です。彫刻作品では現在、11月に名古屋のギャラリーで発表する作品を制作中ですが、これもまた新しい手法を少し取り入れてみたいと思っています。

―― 鈴木さんもどんどん進化しているのですね。

鈴木:常にそうありたいと思っています。Tokyo Midtown Awardで思いが叶ってアーティストとして一歩を踏み出せました。正直なところ、今は戸惑ってもいるしプレッシャーも感じていますが、ここで立ち止まらずにステップアップしていけるよう制作を続けていきたいと思います。

「単眼的風景:La Marseillaise」(2014年/杉材、コンパネ、アクリルペンキ)

「単眼的風景:La Marseillaise」(2014年/杉材、コンパネ、アクリルペンキ)

―― ありがとうございました。これからの活躍に期待しています。

鈴木 一太郎
鈴木 一太郎 Ichitaro Suzuki
現代アーティスト/ 1988年 愛知県生まれ/ 2013年 愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士前期課程修了/ Tokyo MIdtown Award 2013 アートコンペグランプリ/
株式会社DMM.comの3Dプリント部門DMM.makeにおいて、記事を連載するなど情報化社会における実在の問題を追求する。2014年11月には初の個展を開催。
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