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ARTICLE

VOL.022021.12.21(TUE)

アルスエレクトロニカ・フェスティバル2021から紐解く未来の文化的テクノロジー

去る2021年9月8日(水)、東京ミッドタウンとアルスエレクトロニカによるトークセッション「アルスエレクトロニカ・フェスティバル2021から紐解く未来の文化的テクノロジー」をオンラインで行いました。

このトークでは、「アルスエレクトロニカ・フェスティバル2021-A New Digital Deal-」の開始日に合わせ、今年のプリ・アルスエレクトロニカ審査員であるアーティストの真鍋大度さんとアルスエレクトロニカのメンバーらで今年の受賞作品をレビューしながら、未来の文化的テクノロジーについてディスカッションしました。

今回はそのディスカッションをインタビュー記事でご紹介いたします。

(聞き手:東京ミッドタウン アルスエレクトロニカ連携プロジェクト プロデューサー 藤谷菜未)

話し手

  • 真鍋 大度

    ライゾマティクス

    真鍋 大度

    アーティスト、プログラマ、DJ
    2006年Rhizomatiks 設立。
    身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、様々な領域で活動している。

  • 小川 絵美子

    アルスエレクトロニカ プリ・アルスエレクトロニカ ヘッド

    小川 絵美子

    オーストリア・リンツを拠点にするキュレータ、アーティスト。2008年よりアルスエレクトロニカに在籍、新センター立ち上げに携わり、以降、フェスティバル、エキスポート展示のさまざまな企画展のキュレーションを担当。2013年より世界で最も歴史あるメディアアートのコンペティション部門であるPrix Ars Electronicaのヘッドを務める。

  • 久納 鏡子

    アルスエレクトロニカ アンバサダー

    久納 鏡子

    アンバサダーとしてArs Electronica Futurelabの研究プロジェクトに携わる。これまでインタラクティブアート分野における作品を手がける一方、公共空間、商業スペースやイベント等での空間演出や展示造形、大学や企業との共同技術開発など幅広く活動している。作品はポンピドゥセンター(フランス)、SIGGRAPH(アメリカ)、文化庁メディア芸術祭など国内外で発表。東京都写真美術館(日本)に所蔵。

今年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルは、昨年に続きリアルとオンラインによるハイブリット開催

藤谷

皆さん、本日はよろしくお願いします。真鍋さんと私は東京、小川さんと久納さんはオーストリアのリンツからの参加です。
まず久納さん、今年のフェスティバルの概要についてご紹介いただけますか?

久納

はい。まさに今日9月8日から12日までの5日間、オーストリアとオンライン上でアルスエレクトロニカの今年のフェスティバルが開催されます。アルスエレクトロニカ・フェスティバルは1979年からスタートし、毎年ディスカッションすべきテーマが設定されるのですが、今年のテーマは「A New Digital Deal」。この言葉を聞いて、ニューディール政策やグリーンディールといった言葉を思い出す人もいると思いますが、私たちがディカッションしたいのは、「デジタルワールドはどのように世界や社会に機能していくか」ということ。いまやデジタル技術は仕事や普段の生活において当たり前の存在になっていますが、それによって作り上げられた文化を今一度考え直してみようというのが狙いです。

トーク風景

藤谷

続いて、毎年恒例の「プリ・アルスエレクトロニカ」について、コンペティションを統括している小川さんと、今年の審査員をつとめた真鍋さんに伺って行きたいと思います。
まず小川さん、概要について教えていただけますか?

小川

はい。プリ・アルスエレクトロニカは、1987年から続くメディアアートのコンペティションで、今年は「デジタルミュージック&サウンドアート(Digital Musics & Sound Art)」、「コンピューターアニメーション(Computer Animation)」、「AI&ライフアート(Artificial Intelligence & Life Art)」の3つのカテゴリーで大賞のゴールデンニカ(Golden Nica)が競われました。さらに今回は、EUからコミッションを受けてアルスエレクトロニカが主催している「スターツプライズ(STARTS PRIZE)」、そして今年から新設された「アルスエレクトロニカアワード・フォー・デジタルヒューマニティー(Ars Electronica Award for Digital Humanity)」と「冨田勲特別賞(Isao Tomita Special Prize)」についてもご紹介します。

プリ・アルスエレクトロニカ

デジタルミュージック&サウンドアート
ゴールデンニカ
「Convergence」Alexander Schubert

小川

プリ・アルスエレクトロニカが始まった1987年から続くカテゴリーです。ゴールデンニカを受賞したドイツ人アーティストによるこの作品は、5人のミュージシャンとAIが一緒に音と映像を繰り広げる約30分のステージパフォーマンスです。ポイントは、AIを「人間を映し出す鏡」として使っていること。AIで音楽を作り出すのではなく、AIがあるからこそ見えてくる人間像とはどういうものかという視点で作品が作られています。

真鍋

このカテゴリーの今年の審査員を僕が担当したのですが、全体的にAIを使った作品が多かったですね。中でもAIによる極めて実験性の高い作品や、AIのテクノロジー部分の可能性を追求した作品が多かったのですが、これは「人間」を中心に考えられている作品で、その点を審査員全員が評価しました。パフォーマンスや音楽の強度も非常に高かったですね。少し前だったら、AI を使って曲を作るだけで評価されましたが、今は作品としてきちんと完成しているものでないと難しいということが、この受賞作品から分かります。

Credit: Alexander Schubert
Credit: Alexander Schubert
Convergence

コンピューターアニメーション
ゴールデンニカ
「When the Sea Sends Forth a Forest」Guangli Liu

小川

中国人アーティストによる約20分強のドキュメンタリー作品です。約40年前、クメール・ルージュによる大量虐殺が行われていた時代のカンボジアの様子を、リュウさんという老爺が自伝的な視点で語る構成です。40年前のリアルな写真や映像がほとんど実存していないため、残ったわずかなものを3Dやモデリング、バーチャルリアリティを駆使して再構成し、新しい集合的な「記憶」を作り出しました。

Credit: Guangli Liu
Credit: Guangli Liu
When the Sea Sends Forth a Forest

アーティフィシャル・インテリジェンス & ライフアート
ゴールデンニカ
「Cloud Studies」 Forensic Architecture

小川

ロンドン大学ゴールドスミス(Goldsmiths, University of London)の研究室が主体となったアーキテクチャー・テクノロジー・アクティビスト集団の作品です。空爆による煙や、デモを駆逐するための催涙ガスなど、人間や自然環境に有毒なクラウド、つまり「雲」をテーマにしています。使っている素材は、無名の市民たちがスマートフォンで撮ってYouTubeにアップした映像や、監視カメラの映像や画像、人工衛星の画像など。それら何千もの雲の映像を、AIやモデリングを使って再構築しながら、環境的暴力犯罪や、国家・軍隊による人権侵害などを暴くための証拠を作り出しています。

真鍋

フォレンジック・アーキテクチャーは、僕が学校の授業でも取り上げる団体ですが、プリ・アルスエレクトロニカを受賞するとは正直思っていませんでした。「スペキュラティブデザイン(Speculative Design 編注・問題提起型デザイン)」の領域では評価されているけれど、メディアアートとは少し違うかなと思っていたからです。
彼らは問題提起で終わらず、問題解決の手がかりも提供する、つまり実際に社会の問題を解決しに行っている点が特徴で、他のフィクショナルなアプローチのアーティストやデザイナーとは一線を画します。ですので、彼らがゴールデンニカを受賞したのは、象徴的だと思いますね。

Credit: Forensic Architecture
Credit: Forensic Architecture
Cloud Studies

アルスエレクトロニカアワード・フォー・デジタルヒューマニティー
「Branch Magazine」 Climate Action Tech

小川

オーストリアの外務省にサポートされた新しい賞です。記念すべき最初の大賞は「ブランチマガジン」というオンラインマガジンが受賞しました。サブタイトルに〈サスティナブルで公平なインターネットのためのオンラインマガジン〉とある通り、例えばAIが環境の持続可能性にどう役立つのか、クリプトカレンシー(crypto currency 編注・暗号通貨)に必要なエネルギーをどう抑えるのか、IT分野を化石燃料から開放するにはどうするのかなど、環境を守るために私達ができるアクションの実例が“ギュギュッ”と詰まっているマガジンです。

Credit: Climate Action Tech
Credit: Climate Action Tech
Branch Magazine

冨田勲特別賞
「Apotome」 Khyam Allami, Counterpoint

小川

こちらも、プリ・アルスエレクトロニカのミュージックカテゴリーの特別賞として、今年新設されました。冨田勲さんといえば誰もが知る日本音楽界のレジェンド。そのクリエイティブ精神やチャレンジ精神を体現するような作品・アーティストに贈られます。受賞したのは、西洋の十二音階では表現できない中近東や東洋などの音楽を、チューニングを使って作曲できるオンラインツールです。そうした伝統的音楽とデジタルテクノリサーチを結びつけ、人々に新しい可能性を広げたところが評価されました。

真鍋

ミュージックカテゴリーなので僕にもひとこと言わせて下さい。このツールが優れている点はたくさんありますが、一番はコミュニティやオンライン上でコラボレーションをする仕組みがよく考えられているところ。つまり1人で作曲するだけでなく、オンライン上のコラボレーションを通して、多くの人の創発を促す装置になっているという点です。冨田勲さんは偉大な作曲家であると同時に、ツールの新しい使い方にもチャレンジしてきた方ですので、その考え方や在り方に近い作品が選ばれたということですね。

Credit: Camille Blake - CTM Festival-77
Credit: Camille Blake - CTM Festival-77
Apotome

スターツプライズ

小川

こちらはEUからコミッションを受けてアルスエレクトロニカが主催しているものです。イノベーション、テクノロジー、インダストリー、そして社会を刺激するアートを、2つの大賞によって表彰します。

Credit: Ars Electronica / Martin Hieslmair
Credit: Ars Electronica / Martin Hieslmair

グランドプライズーアーティスティック・エクスプロレーション
(Grand Prize - Artistic Exploration)
「Oceans in Transformation」Territorial Agency

小川

2人の建築家が中心となって行っているコミュニティープロジェクトで、海の環境問題をテーマにしています。何百人もの科学者やアクティビストとコラボレートした大規模研究の結果が、巨大な20枚のスクリーンに映し出され、思わずじっと見入ってしまう作品です。

Credit: Territorial Agency
Credit: Territorial Agency

グランドプライズーイノベイティブ・コラボレーション
(Grand Prize - Innovative Collaboration)
「Remix el Barrio,Food Waste Biomaterial Makers」Anastasia Pistofidou, Marion Real and The Remixers at Fab Lab Barcelona, IaaC

小川

スペインのカタルーニャ地方で毎日720tの食料が廃棄されている現状を背景に、アーティストやデザイナーが地方のレストランやギャラリーとコラボレーションし、アボガドの皮から作る染料や、オレンジの皮から作るバイオプラスチックなど、生ゴミをアップサイクルするプロジェクトです。

真鍋

このプライズは僕もよく応募していますが、作品単体ではなく社会との接点を重視している賞だと思いますね。もちろん環境問題やサスティナビリティをキーワードにしたプロジェクトはたくさんありますが、問題提起するだけじゃなく、現実社会で実際にコミュニティを作ったり、作品づくりやワークショップをしたりした上で、そこからアクションを起こさせるような仕組みが評価されています。日本はちょっと苦手なジャンルで、特にイノベーティブ・コラボレーションを受賞したスペインのプロジェクトは非常にヨーロッパ的だなと思いました。

これからの日本のメディアアートに必要なものは?

藤谷

アルスエレクトロニカ・フェスティバルだけでなく、世界各地の芸術祭に出品したり、ワークショップに参加したりしている真鍋さんですが、日本と海外の違いはどういうところですか?

真鍋

作品作りは日本で行うことが多いのですが、作品を発表する場はやはりヨーロッパが多いですね。フェスティバルも多いし展覧会も多いですから。でも日本だとそういう場がなかなか思いつかない。もちろん日本にも数多くのアートフェスティバルがありますが、街にちゃんと組み込まれた状態で行われているものが少ないのが実感だからです。街ではなく商業施設の中とか、プライベートな場所で収まっているイメージがありますね。日本はそういうことが環境的に難しいんじゃないかと思います。街でやると、めちゃめちゃクレームが来るんですよ。音がでかいとか。アートフェスティバルが街に受け入れられにくいから、地方の自然の中とかに行くしかなくなるんですよね。

これからの日本のメディアアートに必要なものは?

藤谷

この「未来の学校」も、東京ミッドタウンの中からそれほど出ていません。もう少し周りの街に浸み出していかないと、市民の行動変容といったところには到達できないのかなって、今のお話しを伺って思いました。

小川

アルスエレクトロニカ・フェスティバルを間近で見ていて、すごく「なるほど」と思ったのが、会場で世界中から来たいろんな人たちが出会って、仲良くなった人と次のプロジェクトが始まって、というのが結構あるということ。そういう自分だけのコミュニティじゃないところでお互いぶつかり合える場がアルスエレクトロニカらしさであり、そういったフェスティバルに求められていることなんじゃないかと思います。

真鍋

すごくよく分かります。僕がアルスに行くのは、元々予想してなかったことが起きるとか、いろんな人と出会えるという、偶然性が面白いと思っているから。日本のフェスはどうしても顔ぶれが似てくるから、積極的にいろんなジャンルの人を混ぜ合わせていかないと、すごく小さな村がずっと存在するだけになっちゃう危険性はあります。

久納

どうすればそうした多様な人たちとのコラボレーションが生まれるのかという部分が肝になると思います。アルスは“巻き込む”ことでそれを実現しています。いろんなアーティストにお願いをしたり、チャレンジしませんかって声をかけたりするのですが、それはいろんな人を巻き込むことで、新しいものや議論が始まることを期待しているからです。その時に気をつけているのが、「小さな成果や、チャレンジしてうまくいかなかったことをばかにしない」ということ。例え技術的な目新しさはなくても、“今の社会の状況に対して新しいアプローチをしようとしているんだ”とか、“テクノロジー的な古さをあえて考え直す実験なんだ”とか、その作品が社会に対してどういう意味があるのかを前向きに捉えるようにしています。

小川

ミュージックカテゴリーで受賞したラシン・ファンデージュ(Rashin Fahandej)という作家と話したのですが、彼女が今回の作品(「A Father’s Lullaby」)を作ったきっかけは、ボストン市長のオフィスでアーティスト・イン・レジデンスをしていた時に「いろんな警察の人たちと話しをしたこと」だそうです。そういう「どうなるか分からないけど」というところから、結果的に私達市民が考えるべき問題への架け橋になるような作品が出来たり、よく分からないけど面白い体験に繋がったりするので、アートな実験への寛容性は重要だと思いますね。

真鍋

日本だと「よく分からないものは作ってはいけない」みたいなところが結構あるし、費用をかけてテクノロジーを使う以上、問題が解決されることが要求されがち。どうなるかよくわかんないけどやってみようっていう場所が少なすぎる気はします。

藤谷

よく分からないものを作ったり、試したりすることの大切さは、前回のディスカッションでパノラマティクスの齋藤さんもおっしゃっていました。「よくわからないものだけど料理して、一回食べてみる、そういう精神や場が必要なんじゃないか」と。アートの最先端で活躍している皆さんの問題意識は共通しているのですね。
本日は皆さんありがとうございました。

未来の学校

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