テーマ | 応募者が自由に設定 |
---|---|
審査員 | 大巻 伸嗣、金島 隆弘、川上 典李子、鈴木 康広、スプツニ子! |
賞 |
グランプリ(賞金100万円)─── 1点 準グランプリ(賞金50万円) ─── 1点 優秀賞(賞金10万円)─── 4点
|
応募期間 | 2018年5月24日(木)~6月14日(木) |
©Mina Asaba
都市は新陳代謝をしている。時間とともに景観は変化し、私たちの過ごす時間や場に変化を与えてきた。しかし、最初から都市と位置付けられた土地はない。建築を建て、壊しを繰り返しながら、膨張した結果である。私は蒲公英の綿毛を植え、その新陳代謝を表現した。儚くも懸命に建つ最小の建築たち。ひいては都市である。壊れても、誰かが植えれば生まれ変わる。都市は誰のものでもなく、時間とともに更新され続けていくものなのだ。
私が興味深かったことは、彼がタンポポを育てることから作品が始まっているということだ。日々観察し向き合い、些細なことかもしれないことの中に可能性を見つけようとする姿勢は、変わらないように見える日常を新しい可能性へと導いてくれるかもしれない。震災や災害を経て私たちが次に想像しなければならない世界は、作品の向こう側に予感させてくれるように感じた。それは、構造絵を持つ空間が、柔軟に様々なものを受け入れ、しなやかに新陳代謝していくことを感じさせてくれる。
自らたんぽぽを育て、得られる綿毛を素材とし、丁寧に細やかな作業で積み上げ、まるで一つの街を作り上げていくような青沼さんの立体作品は、揺れ動く日本、そして世界の今を体現しているかのようです。制作において、作品で表現したい世界と、使用する素材とをどう一致させるか、手を動かし、考え、そしてまた手を動かす…そのやり取りから作品の世界観は更に広がっていくかもしれません。自然と人工、変化と固定、自律と依存、安定と浮遊…様々な概念が錯綜します。
最小の構造物であるタンポポの建築物で構成される都市。個々の綿毛は人にも見え、都市と人、自然環境など、多様で躍動的な関わりを想起させる。展示中の作品の変化に関する青沼さんの考えも気になった点だが、鑑賞者の息や吹き込む風など周囲の状況を受けとめる姿勢を知り、そのことも大変に興味深かった。予期せぬ災害を受けても再生していく都市のあり方やそこに立つ人間の存在も考えさせられる。繊細な綿毛による、強く深いメッセージとなっている点を高く評価します。
青沼優介さんの「息を建てる/都市を植える」の魅力は、「強さ」を理想とする近代建築の構造とタンポポの種の「弱さ」の対比であることは言うまでもないが、青沼さん本人の考えや行為にさらなる可塑性が垣間見え、審査を経て変化を感じられたことが、今後の作品の展開を予感させた。完璧な構築物を求めながら、そこに破壊や崩壊といったことを思わせるのは、昨今の自然災害の影響もあったように思う。プロジェクトとして人と場所を巻き込んでいくような、生命を思わせる柔らかな展開を期待したくなる作家だ。
ちょっとした風で崩れたり壊れてしまうような儚さが、現代都市と震災・災害のイメージを連想させながらも美しく思いました。たんぽぽの綿毛という素材も、土に植えればいずれたんぽぽに育つポテンシャルを秘めていたり・・・街を眺めながら、自分の想像力の広がりを感じられるところが心に残りました。
©Kawada
都市に眠っている夜空を、ここ東京ミッドタウンに出現させる。
コンセプトは「意識への誘発」
都市の生活のなかで
星空は見えるだろうか。
現代都市での生活では
星空と共に生活している意識は薄れてしまった。
大きなビル、大量の灯り
都市が星空を吸収している。
この東京ミッドタウンで「星圖」を展示することは、都市が吸収している星空の存在を、人々の生活や意識に戻すことであると考える。
東京ミッドタウンに再び星が見えるようになった。
昼夜問わず輝き続ける星は、私たちの日常にとって関係を結ばない存在となっている宇宙との接点を思い起こさせる。
ただ点を線で結ぶという、単純で簡単に見える制作は、日々精進するアスリートのように、精神と肉体の崇高な技から生み出され、画面へと解き放たれた。
今回のこの作品は、作家としての責任感や、静かに画面と戦う作家の意思を感じさせてくれるものだった。今後の制作が楽しみな作家の一人である。
手に筆を持ち、精神を研ぎ澄まし、星空に想いを馳せながら、真っ白な大画面に挑む。作品を目の前にすると、下村さんの緊張感のある創作姿勢が伝わってきます。そして、リズミカルな筆のタッチからは、自分の頭上に広がる星空からスタートし、扱いの難しい「書」という素材に真摯に向きあいながら、変化する自身の感覚と、毎日の制作風景が筆を通じて投影され、そこから広がる彼女の世界を感じます。
緊張感に満ちた潔い直線、細く軽やかな曲線など、星と星の間に伸びる線の筆致に密度の濃い制作過程が感じとれた。日々の想いを描いたという線が見せる星図は、感性が鈍り気味な現代の我々に刺激をもたらし、問いも投げかける。静謐さに包まれた作品ながら、手がなしうるアートの強さも滲みでて、はっとさせられる。下村さんの日常と遙か彼方の宇宙を結びながら、想像力を喚起する広がりのある世界を見せてくれた。実力を感じました。
星空とともに生活する意識を現代の都市に取り戻したいという下村奈那さんが描いた星図に対峙し、審査員というよりは観客の1人として少し戸惑った。無数の線の重なりの中に、星座のような骨格や形象が見えてこない。ひらかれた作品とはどんなものなのか?といった議論が審査会で制限時間いっぱいまで展開し、平行線を辿ったまま宙吊りになった。下村さんが墨と自らの身体をもって描いた星図は古代人のような世界観を装着したらどのような鑑賞が始まるのだろう。理解のかたちを超えた関わりが生まれるのかもしれない。現代の情報世界の中で、翻訳不可能な作家の筆に感応することは、観る側の根拠をあっさり覆す。現代に埋もれている自由さを見出すきっかけになるのかもしれない。
とても完成度の高い作品でした。宇宙というスケールの壮大さと、書のリアルな身体性の対比が面白い。今後に期待しています。
テーマは「愛」。愛というものを、私たちは身近に感じながらも深く考えずに日々を過ごしているのではないでしょうか。今回の作品では飴の量り売りの屋台の中に、200人以上の人々に書いていただいた「あなたにとっての愛とはなんですか?」という問いの答えを展示します。無料配布する飴を味わいながら、鑑賞者の方と共に、自分の根底にある愛というものを見つめる時間を生み出します。
作品も、田中さん自身も、非常にインパクトがあり、「記憶に残る強さ」という意味でダントツでした。愛というテーマに直球で向き合う姿勢が、ミッドタウンを行き交う人にどう影響を与える(動揺させる??)のか、SNSの広がりにも期待しています。
※2018年は審査の結果、既存の賞に加えて、作家の将来性に期待して授与される賞として「審査員特別賞」が設けられました。
何かに圧倒される感動に人々を引き込みたい。その世界から抜け出せず、包み込まれるような感覚を感じて欲しい。なぜなら、私たちはこの巨大な建築物と時間という存在と戦っていかなければいけないからだ。圧倒されたその瞬間、自分は自分という一人の人間だということを思い出せる。絵画がそこに存在している本当の意味を考え、今この時代を生きる私たちは何をしなければいけないのか、問いかける。
「何かに圧倒される感動に人々を引き込みたい」という思いで始まっている彼女の創作活動は、彼女の放つ爽やかな言葉とは、全く裏腹なゾンビのような現実風景を皮肉的にも浮かび上がらせているようだ。
その自覚なき反抗は、無邪気な子供の狂気のようにも思える。
今後より一層、その直感と本能を研ぎ澄ませながら世界を描いていってほしい。
"Stand Up!"は座ったままでいる犬の置物たちを立ち上がらせる試みです。一般的に流通している量産型の犬の置物は殆ど座ったポーズをしており、従順で健気なものとして存在しています。座った犬を立ち上がらせることがどのような意味を持つかは、作品をみる人によって様々ですが、私は、私たちを型にはめ、何者であるかということを強いる社会や、縛っている自分自身から解き放たれたいという思いで制作をしています。
座ったまま立ち上がろうとしない犬の置物に自らが関与することで、立ち上がらせる「"Stand Up!"」。そのタイトルの通り、非常に明快なコンセプトの作品です。そして髙さんの力で見事に立ち上がった犬からは、既存の社会システムに真正面から対峙する、彼女自身の姿勢も見えてくるようです。犬が立ち上がった後に見える世界はどのようなものか、そこまで描けたとしたら、作品も犬も、もっと活き活きとみえてくるかもしれません。
©Hajime Kato
私は生活の舞台である「家の中」で起きる日常に注目し、記録するように描いている。今回の作品は他人には見せる事もない生活の一場面を通して、人はみんな同じく生きているんだという安心感を感じさせる。どの町に行っても、晴れた日のベランダには洗濯物が干してある。服とは着ることで私たちの印象や社会的な地位を表すものであるが、人から脱がれた服は、洗濯され、干されることで、誰でも持っている普遍的な風景に変わる。
私的で些細な日常の風景を描くというテーマに真摯に向きあってくれた。パブリックアートとしての準備や設置面での苦労もあったようですが、作品を留める糸や配線を見せる展示など熱意をもって最後まで試みを重ねた点も評価したい。繊細で安らぐ作品であると同時に、YU SORAさんらしいメッセージの凜とした側面にも魅力を感じます。制作過程で直面した課題等は今後に活かし、引き続き自身の想いを存分に表現していってください。
各ファイナリストは2次審査のアドバイスを踏まえ、プランを発展させた成果を見せてくれました。ポジティブなエネルギーや、人間性を感じる作家が多かったです。商業施設での展示のために生じる、素材やサイズなどの制約に直面しながらも、いかに作品化するかを学ぶ機会にもなったのではないでしょうか。なかでもグランプリと準グランプリの作品はクオリティが高く、個人の奥底にある問題意識が提示されていました。今後に期待しています。
グランプリ、準グランプリに選ばれた作品には、素材や手段は違えども、自分にとって身近なものや感覚を、いかに社会に伝えるかを考え、作品にする姿勢が感じられました。そこが良かったと思います。また審査の過程をとおして、若い世代が今何を考えているか、改めて感じる機会にもなりました。審査員の皆さまとは長時間にわたり議論を重ねましたが、それぞれの視点から刺激をもらい、自分の考え方もほぐれていくような楽しい時間でした。
繊細な作品が放つ強いメッセージや、親しみやすい作品に潜む社会への問いなど、ファイナリストの多様な視点を知る力作揃いでした。当初の提案になかった挑戦もなされるなか、心に響き、想像力が刺激される作品を各賞に選出できました。共に、手を動かすアートの強靱さに満ちた意欲作です。他の皆さんからも今の時代にしっかり向きあおうとする姿勢が伝わってきます。今回の経験を生かし、今後更に思い切った挑戦を見せてくれる可能性を感じました。
ファイナリストの皆さんの「やり切った」感じが伝わり、頼もしかったです。審査の過程では、東京ミッドタウンという場で応募者の可能性やポテンシャルを、いかに発芽させられるか、応募者と審査員が一緒に考える場をいかにつくれるか、といったことを考えながら審査をしました。考え方を柔らかく変えていける可能性を感じる青沼さんと、アスリートのように作品を研ぎ澄ませていく下村さん、対照的な二人が選ばれて興味深かったです。
「世界の捉え方の多様性」に気づかされるのがアートの面白さです。東京ミッドタウンに足を運ぶ人たちの中には、日本社会の中での日々の生活に生きづらさや息苦しさを感じる瞬間もあると思うのですが、そういったときに、アートに触れて「こういう世界もある」「こんな形で生きることができる」と考えるきっかけをつくる作品が選ばれました。自由に生きていい、ということを今年の受賞作品を通して感じていただけたらと思います。
アートコンペ総括
テーマは「応募者が自由に設定」とし、東京ミッドタウンを代表するパブリックスペースであるプラザB1Fを舞台に、場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集し、11回目の開催となる今回は総計236作品の応募がありました(応募条件は39歳以下、かつ1名(組)1作品案まで)。
今年は、前回より継続の2名に加え、新たに3名の審査員が就任し、「コンセプト」「場所性」「芸術性」「現実性」「独創性」の審査基準で審査が進められ、1次審査は書類審査を行い12作品を選出、2次審査では、1次審査を通過した作家が模型を使って公開プレゼンテーションを行い、最終審査に進む6作品を選出しました。2次審査通過者6名には制作補助金として100万円が支給され、2018年10月1日(月)より公開制作を実施。10月9日(火)の最終審査にて、グランプリ1作品、準グランプリ1作品、優秀賞4作品(うち1作品は審査員特別賞)を選出しました。最終審査には完成度の高い作品が並びましたが、上位に残ったのは、コンセプトと造形ともに力のある作品という結果となりました。
今年度の応募傾向としては、立体作品が一番多く、前回同様絵画の数を上回りました。関東圏の応募の比重が強い傾向は続いていますが、その他の地域や海外からの応募も増え、TOKYO MIDTOWN AWARDが若手作家に広く浸透していることを実感することとなりました。また、前回に引き続き、東京ミッドタウンという場所をどう捉えどう向き合い提案するかという点に加え、各作家の社会への視点や問題意識や想いなど、各審査過程の中でそれらを受け取った審査員たちによる白熱した議論を経て6作品の受賞作が決定しました。
6名の受賞者には大きな拍手を送るとともに、今回ご応募いただきましたすべての皆様に、心より感謝申しあげます。