アートコンペ

2019年 結果発表

TOKYO MIDTOWN AWARD 2019アートコンペ結果発表

アートコンペ概要

テーマ

応募者が自由に設定

東京ミッドタウンという場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集します。
テーマを自由に設定し、都市のまん中から世の中に、そして、世界に向けて発信したいメッセージをアートで表現してください。

審査員 大巻伸嗣、金島隆弘、川上典李子、クワクボリョウタ、鈴木康広
グランプリ(賞金100万円)─── 1点
準グランプリ(賞金50万円) ─── 1点
優秀賞(賞金 各10万円)─── 4点
  • ※グランプリ受賞者を、University of Hawai’iのアートプログラムに招聘します。
応募期間 2019年5月13日(月)~6月3日(月)

グランプリ

made in ground

  • made in ground
  • 受賞者:

    井原 宏蕗
    彫刻家
    大阪府生まれ
    東京都出身
    素材:ミミズの糞塚、金彩
    井原 宏蕗

ミミズが排泄する糞塚は、土であり、排泄物であり、生き物がいた痕跡である。私はそんな糞塚をミミズが作った彫刻と捉え、それらをそのままの形で、窯で焼成し陶にするプロジェクトを行なっている。華やかな六本木という街で「糞」は排泄物として嫌われるが、それらは循環の一部であり、生きた証である。縁の下の力持ちであるミミズが地下で造った糞塚を、六本木の地下の会場で展示することで、私たちの未来について考えたい。

大巻 伸嗣 講評

近年、地球温暖化、異常気象が相次いでいる中、私達にとって自然との関わりをもう一度考えさせる作品を完成させたことを高く評価する。作品の展示については、空間を埋め尽くすことに目を向けたため、本質的な良さはあるのだが、もう一つ客観的にこの作品が持つメッセージを伝えられるような工夫ができるようになることが、作家として活躍していく上で、とても重要な課題となるだろう。しかしながら、彼が日本、イタリア、ドイツなどで実際、手と身体を動かし、ミミズという普段目にとめないものをフューチャーし、膨大な時間をかけ、その生態を観察する行為からなる彼の作品は、小さな存在がつくりだす大きな時間を私達に考えさせるものとなった。

金島 隆弘 講評

人工物で溢れる都会で、自分が踏みしめる大地に焦点を合わせ、そこに生きるミミズを起点に、生命体の営みを視覚化しながら壮大な壁を立ち上げるべく作品を焼き続けた姿勢が作品から伝わってくる。展示空間の制約に屈し、作品の強度が下がってしまったことは極めて残念ではあるが、それは作家側の問題でもあり、会場側の問題でもある。その問題を含め、作品をどう立ち上げられるか、そこに次の可能性と、今後があるように思う。

川上 典李子 講評

ミミズの「糞塚」は小さな生き物の痕跡だ。そのひとつひとつを拾い集めながら井原さんが向き合うのは、自然界のとてつもない時間。私たちをとりまく世界の大きな循環にも気づかせてくれる作品であり、焼成され黄金色に彩色された無数の凹凸にはミクロとマクロの視点が交差している。均質ではないその形状、色も示唆に富む。私たちにさまざまなことを考えさせるミミズの糞塚であり、一貫した問題意識に基づいたメッセージの強さも伝わってくる。意欲的な作品を高く評価します。

クワクボリョウタ 講評

身近にあるのに見えないもの、見えているのに気づいていない事について気づかせてくれる作品です。華やかな六本木にミミズの糞を展示するという話だけ聞くと、奇を衒ったアイディアに感じられるかもしれませんが、作品をみれば決してそんなことはないと納得できる、丁寧で真摯な作品です。美しいものを再定義していくことがアーティストの役割であることを再認識させられました。是非多くの人に見てもらいたいと思います。

鈴木 康広 講評

都市の表層を揺るがすコンセプトもさることながら、作品を前にして皮膚感覚に迫るものがあった。焼成の都合で避けられない継ぎ目は都市の区画を思わせた。規則的なグリッドと糞塚の複雑なパターンが地と図となり、視覚が揺らぐ感覚におちいった。糞塚の街を彷徨う目に不思議と飽きがこないのは不在のミミズのお陰だろうか? こうして、作者の手で造形された糞塚の「襞」が世界を覆い始めた。それが余すところなくミミズの内側を通過したものであると気づいた瞬間、未経験の鳥肌が立った。

準グランプリ

イカトカイ

  • イカトカイ
  • 受賞者:

    宮内 裕賀
    イカ画家
    鹿児島県出身
    素材:キャンバス、ジェッソ、イカ墨、コウイカ甲、ケンサキイカ水晶体、アラビアゴム、油彩
    宮内 裕賀

東京の時の流れは速い。人間性を殺していかないと生活できない如何ともしがたい社会。みんな、スルメや熨斗イカになっていないか。ネオンの瞬きはいかにも目まぐるしく体色変化するイカの表皮の色素胞のよう。星のない夜空はイカ墨。都会の美しいイカに気づいてもらいたい。そしてイカが生きる海と、地球と宇宙を思い出していかなるときも自分を大切にしてほしい。いかほどの人間と世界を尊重できるか。イカに生かされよう。

大巻 伸嗣 講評

今回、総数262点の中で、独自性をもった作品として一番気になる作家であった。どんな人物なのだろうという興味がわき、プレゼンテーションで会ったときは、本人のイカへの熱意と、世界がどれほどイカとつながっているかという彼女のイカへの探求心に度肝をぬかれた。プレゼンテーションのとき、彼女に対し話したことが、展示に生かされ、サイトスペシフィックな作品へと昇華させた。ただの絵画だったものが、天井から降り注ぐ光や水、その反射を生かした構成、それにとどまることなく背面に映り込む夜(影)のイカの存在が行きかう人々の姿さえも、水中の中でたゆたうイカと人との関係を作り上げていくような作品を完成させたことは、惑星大直列が一気におきたかのようだった。しかし、作家、作品としての強さを続けるためには更なる努力が必要であると考える。今後の作家としての発展性に期待する。

金島 隆弘 講評

公共空間では滅多に出会うことができない名作と出会った衝撃がある。イカと向き合い続けながら制作を続け、今回その積み重ねが展示空間と大きく共鳴したインスタレーションとなった。描き切った平面の表裏、上から差し込む光や水の波紋、台座の鏡面性と支持体、作品があるべく所に収まった、という感じである。例えそれが偶然性によって実現したとしても、今後は平面的な作品に留まらない創作が多く出てきそうで、楽しみである。

川上 典李子 講評

イカに対する一途な想いや探究に基づく際だった提案であるだけでなく、イカと社会との切り離せない関わりを鮮明に浮かびあがらせる作品を完成させてくれた。イカは東京ミッドタウンという海を泳ぎ、東京の空に浮かびながら、都市に生きる私たちを見つめ、問いかける。作品展示の環境を見ごとに活かしきっている点も評価したい。「イカとつながっている」「描くためにイカに生かされている」と言い切る宮内さんならではの作品です。

クワクボリョウタ 講評

作者自身のイカに対する深い造詣が反映した迫力のある作品となりました。展示する環境に呼応して、絵を表裏に配置したり、外光の反射を活かしたりするなど、最後まで作品を魅せるこだわりが表れています。これは普段イカと接している作者ならではの、きめ細やかな観察眼のなせる技だと思います。一つの対象に徹底的にのめり込むことが、こんな力強さを生むことに感動するし、本人の語るイカの魅力についても耳を傾けたくなります。

鈴木 康広 講評

イカへの一心不乱の姿が審査の過程で終始謎めいていた。最終展示では、与えられた場所の特性を活かし、キャンバスの裏側を見せる什器、移りゆく外光に対する照明のバランスなど、展示の隅々に配慮を感じた。天井を流れる水の効果も味方につけ、審査員一同、状況をポジティブに引き寄せる作者の姿勢に驚いた。イカの像に「人拓」が潜むなど、技法がどこか冗談めいているのも楽しい。イカを通して都市や人間存在を問う独自の道をこれからも示してくれるに違いない。

優秀賞

貝殻の舟―神奈川沖浪裏

  • 貝殻の舟ー神奈川沖浪裏
  • 受賞者:

    杉原 信幸 × 中村 綾花
    杉原 信幸(左)
    美術家
    長野県出身
    中村 綾花(右)
    帽子作家
    沖縄県出身
    素材:貝殻、エポキシ樹脂ほか
    杉原 信幸 中村 綾花

    ©Rich J Matheson

貝殻は貝の生きた痕跡であり、波の形の跡のようです。貝殻を繋いで舟をつくる行為は、土器の欠片を貼りあわせて、古代の土器を蘇らすような行為です。それは海の魂の器が集まって生まれた鎮魂の舟のようです。震災の津波の後から、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」がとても気になり、波のような貝殻の舟が「神奈川沖浪裏」の大波のようになりました。東京ミッドタウンの人の流れと水に包まれるような建築から大波の舟が生まれます。

大巻 伸嗣 講評

1次審査で懸念していた、貝の置物にならないだろうかということや、ディテールや構造に関して、しっかりとクリアされた作品となっている。彫刻とは本来360度どの角度から見ても作品としておもしろいものである。色々な角度から見られるものが理想だが、設置場所においては少し損をしたかもしれない。評価できるところは表裏どちらから見ても、構成や形の美しさがあったところだ。構造に関しても工夫し、作品として昇華させたことも評価できる。今回の展示の六本木、ミッドタウンという場所性と作品のもつストーリーを、もう少し考えを深められればよりよい作品になっただろう。作品のスケールに関しても、それぞれの展示場所にあうような絶対スケールがあると思うので、今回の展示にも制約はあったが、今後もう一度この作品を制作する際は、それを考えてほしい。

人工知能による顔の識別

  • 人工知能による顔の識別
  • 受賞者:

    古屋 崇久
    アーティスト
    山梨県出身
    素材:粘土
    古屋 崇久

街の似顔絵屋のように粘土を使って即興で鑑賞者の首像を作るパフォーマンス。完成された首像は積み重ねられ様々な方が来たことを表す。日々街ですれ違う他者の顔はどれほどの精度を持って私たちの記憶に残っているのだろうか? これからの人工知能の発展と機械化の精密なプロダクトは、私たちの記憶を鮮明にする。

クワクボリョウタ 講評

子どもの頃、段ボールに入って自動販売機ごっこをしたのを思い出しました。一体、箱に籠ったり、機械のふりをすることは何故こうも面白いのでしょう。でも一方でこれが「本当の」仕事だったらどんなに辛い境遇だろうかとも思います。しかしこれはあながち絵空事ではないことを、私たちは薄々気付いています。都市において私たちの快適な生活、潤沢なサービスを支えているのは何なのか、考えさせられます。

鈴木 康広 講評

公共の場で行き交う人をいかに巻き込むことができるか。それはアート部門が取り組むテーマそのものである。1次審査では、AIに関する議論や「顔」の公共性を問うコンセプト、やってみないとわからない未知数のプロジェクトとして票を集めた。最終審査では、審査員が体験者の視点に立ち、運営上のサイン計画などが議論になった。コンセプトやシステムによって完結する作品ではなく、装置と生身の作者の存在が一体となり、状況とともに変化していくプロジェクトとして注目する必要性を感じた。

躍っていたいだけ

  • 躍っていたいだけ
  • 受賞者:

    古屋 真美
    学生
    山梨県出身
    素材:リトグラフ、雁皮紙、金属
    古屋 真美

生活のなかに感じる歓びや痛みを、衣服は内包している。どこかにしまいこんでしまった衣服を、ひっぱりだしてみる。あるいは、運命の1着との出会いを信じて、外に出かけてみる。そのときめきや切なさを、私はずっと体験していたい。違和感だらけのこの身体で、それでも何かに期待していたい。それらを版画で表現し、個人の所有から遠ざける。この作品が風に揺れたとき、人々は、他者の存在を意識し、自分の存在を確かめる。

金島 隆弘 講評

自分の衣服という極めて個人的な題材を扱いながらも、そこから版を起こして紙に刷る作業を経ることで絶妙な距離感を取りながら、二次元と三次元とを行き来する軽やかなインスタレーションに仕上がっている。服と人間、作品と鑑賞者、展示空間と構造体、視点とスケールなどに着目しながら、その関係性をもう少し深く掘り下げることができると、作品が更に面白くなっていくように感じる。

Metaphorical site

  • Metaphorical site
  • 受賞者:

    盛 圭太
    アーティスト
    北海道出身
    素材:絹糸、木綿糸、銅線、カラン・ダッシュ、紙
    盛 圭太

ここはコスモポリタンな場だ。現代の多様性が具体化した場所は、現地制作される作品に応答するだろう。下書きのないまま描かれる糸のドローイングは、作品を享受する多様な『個』によって自由に解釈され、無数の様相をもつ東京ミッドタウンの比喩的なサイト(光景)となる。不可視な多様性の総体が作品そのものであるように。東京ミッドタウンという“場”そのものであるように。

川上 典李子 講評

紙や壁に直接糸で描かれる作品で、東京ミッドタウンで制作された。中央の描写から発芽、生長するように糸が伸びる。手の動きによる造形だけでなく、意図しなかった放物線など、この場でしか誕生しえない作品に挑んでくれた。本人が「バグ」と表わす作品の特色に加え、不可視の可視化においては実体のある糸とかすかな影との関係も興味深く感じる。今後の可能性を感じ、自身のコンセプトのもとでのさらなる前進を引き続き期待しています。

審査員総評

  • 大巻 伸嗣
  • 大巻 伸嗣
    (アーティスト)

    若手の作家たちが、大きな発表の機会を得て、どれだけ自分を客観的に見つめ成長できるかがはっきりと示された展示になったと思います。公共スペースでの展示の意味や難しさを実感した展示ができているのも良かったと思います。グランプリ、準グランプリの2人の作品は、「自分」という生命も含めた人間と自然との関わりを見据え、その表現が空間の中で実現されていました。惜しくも優秀賞となった4組も、それぞれに次のステップを踏めるのではないかと思います。

  • 金島 隆弘
  • 金島 隆弘
    (アートプロデューサー/芸術学研究員)

    今回のアワードでは、東京ミッドタウンという多くの人工物が目の前に立ちはだかる都市の真ん中が舞台にも関わらず、生命の生々しさや、人間らしさを感じさせる作品が多く、「これからどう生きるか」を問い、向き合うべき課題や、生命そのものに対峙する姿勢を作家や作品から感じました。そのような表現に大きく作用する制限や制約に、ミッドタウンがどう柔軟に応えられるかも、これからの創造性への更なる寄与という観点では大切かもしれません。

  • 川上 典李子
  • 川上 典李子
    (ジャーナリスト/21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター)

    受賞した6組は、普段は目にできない世界や意識されにくい状況をとらえ、驚きとともに問題意識を刺激する作品を完成させてくれました。「人間だけが地球に生きているのではないこと」を思考することの重要性が挙げられるなか、広い視野と深く掘り下げた考えを持ち、東京ミッドタウンを訪れる方々に強いメッセージを発する作品の選出となったと思います。「人」にフォーカスするアワードらしい結果ともなりました。皆さんの今後の挑戦にも期待しています。

  • 鈴木 康広
  • クワクボリョウタ
    (アーティスト/情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 准教授/多摩美術大学 情報デザイン学科非常勤講師)

    最終審査まで残った皆さんが限られた時間の中、想像以上のアイディアを予想以上の完成度で実現されていた点にまず尊敬の言葉を申しあげたいと思います。美術館と異なり、通り過ぎる人が多い商業空間の中で、目を惹きつけ楽しませつつも、クリティカルな面を持つ作品が選ばれ、非常に良かったと感じます。作品が、通り過ぎる人々の脳裏に焼き付き生活の中に紛れ込んでいく、アートならではの体験が実現されることを期待しています。

  • スプツニ子!
  • 鈴木 康広
    (アーティスト/武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科准教授/東京大学先端科学技術研究センター 中邑研究室客員研究員)

    作家という立場で審査に参加し、自分よりも若いクリエイターがいまどのように考え、何を見ようとしているのかが感じられて新鮮でした。作品をコンペや公共空間に持ち込むのは、傷ついて壊れてしまう危険性を孕みながら、そこに挑戦するクリエイターたちの姿にも刺激を受けました。科学技術やデザインに求められる問題を解決するための機能性や利便性ではなく、「なぜ人はそこに惹かれるのか」という、答えのない疑問からはじまる、アートの世界との向き合い方に僕自身も底知れぬ魅力を感じています。

審査風景

アートコンペ総括

アートコンペでは、テーマは「応募者が自由に設定」とし、東京ミッドタウンを代表するパブリックスペースであるプラザB1を舞台に、場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集し、12回目となる今回は総計262作品の応募がありました。(応募条件は39歳以下、かつ1名(組)1作品案まで。)

今回は、前回から継続の4名に加え、新たに1名の審査員が就任し、「コンセプト」「場所性」「芸術性」「現実性」「独創性」の審査基準で審査が進められ、1次審査は書類審査を行い12作品を選出、2次審査では、1次審査を通過した作家が模型を用いて公開プレゼンテーションを行い、最終審査に進む6作品を選出しました。2次審査通過者6名には制作補助金として100万円が支給され、2019年9月17日(火)より制作を実施。9月24日(火)の最終審査にて、グランプリ1作品、準グランプリ1作品、優秀賞4作品を選出しました。最終審査では、ハイレベルな作品が並びましたが、最終的に上位に残ったのは、東京ミッドタウンという場の特性を活かしながら、それぞれの作家性を強く感じさせられる作品でした。

今年度の傾向としては、絵画作品が最も多く、その次に立体、インスタレーションが続く形となりました。関東圏からの応募が多い状況が続いていますが、前回から増加傾向にあった他地域や海外からの応募作品も、存在感を増してきています。
更に、今年度は、自然と人間の関係に対して鋭い目を向ける作品が多く、応募作品から、東京ミッドタウンという場所が持つ特性が新たに見出される場面もありました。各審査の過程で、作品や作家の熱量に触発された審査員たちによって活発な議論が交わされ、6作品の受賞作を決定いたしました。

6組の受賞者には大きな拍手を送るとともに、今回ご応募いただきましたすべての皆様に、心より感謝申しあげます。