アートコンペ

2021年 結果発表

TOKYO MIDTOWN AWARD 2021アートコンペ結果発表

アートコンペ概要

テーマ

応募者が自由に設定

東京ミッドタウンという場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集します。
テーマを自由に設定し、都市のまん中から世の中に、そして、世界に向けて発信したいメッセージをアートで表現してください。

審査員 大巻 伸嗣、金島隆弘、クワクボリョウタ、永山 祐子、林 寿美
グランプリ(賞金100万円)─── 1点
準グランプリ(賞金50万円) ─── 1点
優秀賞(賞金 各10万円)─── 4点
  • ※グランプリ受賞者を、University of Hawaiʻiのアートプログラムに招聘します(新型コロナウイルスの影響で招聘の内容が変更になる場合があります)。
  • ※2021年は審査の結果、準グランプリは該当者なし、優秀賞が5点に変更となりました。 また、作家の将来性に期待して授与される賞として「審査員特別賞」を受賞作品の中から1点選出しました。

応募期間 2021年5月10日(月)~5月31日(月)
応募総数 244点

グランプリ

なまず公園

  • なまず公園
  • 受賞者:

    丹羽 優太+下寺 孝典
    丹羽 優太(左)
    画家
    神奈川県出身
    下寺 孝典(右)
    屋台研究家
    広島県出身
    素材:ミクストメディア
    丹羽 優太+下寺 孝典 丹羽 優太、下寺 孝典

鯰が地震を起こすという江戸時代に生まれた伝承をもとに、鯰型遊具、自転車紙芝居、絵画など使ったインスタレーション作品。まるで公園のように、道行く人びとが遊具に乗り、紙芝居を見にくることにより、自然と巷が生まれる。過去と現代をつなぎ合わせ、人々のつながりも再認識させる。

大巻 伸嗣 講評

昨年から続くコロナ禍の状況で、何を考え、見せることができるのかという問いに、 丹羽優太さん+下寺孝典さんは、私たちが乗り越えた先に必要なものを見せてくれたと思う。 人と人が、距離を取りながらも再び関係を作ること、そのプロセスをこの作品は体現しながら見せてくれるだろう。今後の彼らの実践と展開を期待している。

金島 隆弘 講評

コロナ禍で萎縮しがちな環境の中でも、人間としての本来の欲望と、次の社会に対する期待を素直に示すことのできた素晴らしい作品です。単に今を見つめる視点だけではなく、2人の独特な視座の基でのリサーチ力と、協働する関係性が良い形で機能し、作品の強度が備わっていったと思います。この作品に東京ミッドタウンがどう応えられるか、提案を受けた側の今後の展開に期待したいと思います。

クワクボリョウタ 講評

会場や感染症対策の制限が厳しい中で、単にそれを遵守するだけではなく、どんなことが出来るか探ってやってみる。そんなスタンスがみる人を勇気付けてくれます。どこか余裕を感じさせるのは、要石や紙芝居の由来などをリサーチする歴史的な視座、引いては今の状況が決して世界が初めて遭遇する事態などではなく、長い繰り返しの最中にあるのだという視野を持っているからこそと言えます。楽しむことで乗り越えていこうと励まされる作品です。

永山 祐子 講評

今年、コロナ禍での審査となり、世の中が暗く停滞している中でアートの力を感じさせてくれる作品でした。モチーフとなっているナマズ絵は大地震という災害をも面白い物語に変えて乗り越えようとする人間のパワーを感じます。今の時代にもそのようなユーモアが必要なのだと気付かされました。集まることが難しくなった今だからこそ、集まりたくなるような未来の風景を感じる作品は見る人に希望を持たせてくれます。また、ストーリーの内容、遊具、移動式小型屋台の作りなど、全体的に高い完成度の作品でした。

林 寿美 講評

100年後に振り返ってみると、今こそが時代の転換期だったということがわかるのではないでしょうか。《なまず公園》の丹羽優太さんと下寺孝典さんには、コロナ禍を経た次の時代の価値観を創出できるアーティストとしてのポテンシャルを強く感じました。本来は、紙芝居をして子供たちを愉しませたり、なまずの遊具で遊んでもらったりすることで作品が完成するものなので、それが叶わない現況は残念ではありますが、展示を見ただけでも、みなが六本木の一角に集い、笑顔で小さなコミュニティを作っている場面がふと浮かんできます。

準グランプリ

該当作品なし

  • 該当作品なし
  • 受賞者:

    該当者なし

優秀賞

私がかきました。審査員特別賞

  • 私がかきました。
  • 受賞者:

    坂本 史織
    ホームセンター店員
    埼玉県出身
    素材:紙、ペン、墨、木材、単管パイプ
    坂本 史織

私はホームセンター店員です。 あるとき、ペンキをご注文のお客様が「東京ミッドタウンしってるだろ? あれの地下は、ぜ〜んぶ俺が塗ったんだ。」とおっしゃいました。ハッとしました。私が毎日商品のホコリを払うように、どんな場所も無数のだれかの手によってできていると、やっと気がついたのです。 私が働くホームセンターの商品を、私がひたすらかきました。身のまわりを支える、気づきうるすべてのことへ思いをはせながら。

林 寿美 講評

最初の応募書類から2次審査でのコンセプト説明、作品発表に至るまで、坂本史織さんは一貫してプレゼンテーションに優れていました。なかでも、ご自身の職業について尋ねた時、「アーティスト」ではなく「ホームセンターの店員」です、と言い切る姿は、審査員たちの心に強く響いたと思います。そして完成作には「作るよろこび」が溢れていました。アーティストをアーティストたらしめているのは、この無私な創作意欲であることをあらためて伝えてくれた坂本さんは、いわば「ホームセンターの店員/アーティスト」なのです。

borderless

  • borderless
  • 受賞者:

    草地 里帆
    学生
    広島県出身
    素材:絹糸、再帰性反射糸
    草地 里帆

私たち人間は、ほかの生き物の歴史を改変してまで生きていることに普段は目を向けない。本作品に使われている絹糸の原料である繭を作るカイコガは5,000年以上前から人々の暮らしに関わり続けたと共に、多くの品種改良が行われてきた。その際に行われる遺伝子操作は本来の遺伝子の歴史においてのバグであると考えた。また、緯糸の再帰性反射糸は注意喚起の意味を持つ。作品を通して自然と人との関係について再考してほしい。

クワクボリョウタ 講評

絹糸という伝統的な素材と再帰性反射素材という新しい素材を組み合わせ、多元的な視覚体験を目指した作品として評価します。環境照明と往来の視点移動を意識した反射による変化や、遠ざかったり近づいたりすることで生じる混色やキメの表れ、またスマートフォンで撮影された時の見え方まで意識している作品プランからは、長らく絹糸に親しんでいる作者がその現代的な意味を問い続けている姿勢を感じます。

The Vision of Nowhere

  • The Vision of Nowhere
  • 受賞者:

    蔡 云逸
    アーティスト
    上海出身
    素材:パネル、油絵、テンペラ、蝋
    蔡 云逸

洞窟のような六本木の通路に私が夢で見たものことを壁に描く。 断片的な夢日記の中のストーリーを一つの大きな物語に繋げる。 眠っている裸の人間、彷徨う動物たち…都市に実在しない風景をこの壁画に現れるのを祈る。 5,000年前のbushmanは幸運と未来を予言するためにロックアートを作っていた。 六本木の地下通路に現れたこの壁画を見ることによって、自分なりの予言や意味を想像させる時空を今の鑑賞者に与えたい。

大巻 伸嗣 講評

人間の奥底に眠る不安や迷いなどが夢の風景として描かれているが、まるで現代の不安定な世界をさまよう人々の見えない未来を劇場化したような作品となっていた。 多くの人々の、未来に対しての不安定な心を表した作品といえよう。今後、空間を構成していくということを含めて挑戦していってほしい。

Blue mob

  • Blue mob
  • 受賞者:

    柴田 まお
    アーティスト
    神奈川県出身
    素材:モニター、webカメラ、ブルーシート、発泡ポリスチレン
    柴田 まお

Covid-19のパンデミックによって、 この一年足らずで我々の取り巻く環境やコミュニケーションの在り方はめまぐるしく変化した。通信インフラがフル活用され、自己表現や発表の在り方も大きな転換期に立たされている。私はそんな環境の変化に違和感を感じながらも、受け入れ直視していくような作品を作る。多くの人が行きかうこの東京ミッドタウンの中でまた新たなコミュニケーションをカタチにし、表現したい。

金島 隆弘 講評

鑑賞者への分かりやすさが作品に求められがちな今日において、体当たりで制作に挑んだ姿勢と、その思いで立ち上げた作品には独特の魅力を感じます。立体物やカメラ、モニターの数や位置など、考えるべき点はまだたくさんありますが、自分の目の前にある現象やものを取り込みながら、技術を組み合わせて何かの形にしていこうとする姿勢を大切に、制作を続けていって欲しいと思います。

ニュー洛中洛外図

  • ニュー洛中洛外図
  • 受賞者:

    都築 崇広
    アーティスト
    埼玉県出身
    素材:構造用合板、アルミ角材、単管パイプ、他
    都築 崇広

    ©Yuichi Sato

洛中洛外=都市と郊外、です。現代の都市風景を合板の木目にのせることで洛中洛外図をアップデートします。 膨張と増殖を繰り返す現代都市、その複製を担っているものの1つに工業的に大量生産される合板があると考えました。 合板の木目には工業製品ならではの木目が現れます。もやもやとしてリピート感のあるその木目をホームセンターで見ていたら、たなびく金雲が見えてきました。そんな合板から現代版洛中洛外図を考えます。

永山 祐子 講評

最初の審査からとても気になる作品でした。2次審査で若干表現に関しての不安がありましたが、最終的に出来上がった作品は想像していた以上に表現力の高いものとなっていました。合板といういつも目にしている一般流通材の中に壮大な都市像を想像する独特の世界観が魅力的でした。全体の構成も都市が広がっていく様子、移り変わる様子、見るものを引き込み、想像を掻き立てる作品です。時間軸に関しての考えを明確に持っているともっと良かったかなと思いますが、これからさらに発展していく可能性を持った作家さんだなと感じました。

審査員総評

  • 大巻 伸嗣
  • 大巻 伸嗣
    (アーティスト)

    昨年度はコロナの影響により、皆が内に籠もらなくてはならない状況になったが、それに抵抗していこうという作品が多く見られた。今年は状況を受け入れ、そこから見えた世界についてや、近い将来のあり方を見据えた作品が出てきたことは大変興味深かった。東京ミッドタウンの場所性、空間を考え、いままでの固定概念を超えた展開を考えられるような作品が、もっと出てきて欲しいと思う。空間として規制されることもあるが、小さくまとまってしまうことがとても残念である。それぞれの作家が、もっている可能性を存分に発揮した作品を期待したい。

  • 金島 隆弘
  • 金島 隆弘
    (ACKプログラムディレクター/京都芸術大学客員教授)

    コロナ禍の真っ只中、東京オリンピックを跨いで開催された今回。新しい審査員を迎え、若いアーティストからの提案もエネルギーに満ち溢れ、審査する側にいながらも、あらゆる皆さん、そしてアートに自分が支えられているという実感の持てるコンペとなりました。これからどのような未来が待ち受けてるかは未知数ですが、アートにはその先を照らし、次の社会を指し示してくれる、そんな可能性があります。このコンペが継続され、東京ミッドタウンの道標のような存在になっていくことを切に願います。

  • クワクボリョウタ
  • クワクボリョウタ
    (アーティスト/情報科学芸術大学院大学[IAMAS] 教授/多摩美術大学情報デザイン学科非常勤講師)

    このアワードもコロナ禍に見舞われて2年目を迎えます。制限の多い生活が長引くにつれて一時的だと思っていた変化も気づかないままに不可逆なものとしてわが身に浸透していく危惧を感じます。私たちが作品を作るというのはそうした流れに対して自覚的であるために優れた営みなのではないでしょうか。応募作品を見て、各々が自分が自分であることを確認するようなプロセスを重ねているように思いました。全体として少し内向きな傾向があるように感じましたが、積極的に解釈すれば、それは故あってのことです。

  • 永山 祐子
  • 永山 祐子
    (建築家)

    初めての参加でしたが、2次審査、最終審査に至るまで通して感じた作家を育てる賞の姿勢に感銘を受けました。2次審査では審査員からもっとこのようにしたらいいというようなアドバイスもでき、最終発表を見るとそれぞれの作家が中間審査を経て考えた末にさらにブラッシュアップを遂げているように感じました。コロナ禍の大変な時代にそれぞれの精一杯をぶつけて出来上がった作品を目の前にでき、最終審査は私自身もたくさんのパワーと気づきをもらうことができました。作家の皆さんは審査課程の成長を見ても、これからさらにそれぞれが更なる成長を遂げていくことと思います。

  • 林 寿美
  • 林 寿美
    (インディペンデント・キュレーター/成安造形大学客員教授)

    ようやく最終審査を終え、この賞がきわめて公平性に富んだものであると感じました。アーティストが自分のアイデアをプレゼンし、それに対して審査員がコメントしたり助言したりする時間が充分にあり、審査会では審査員同士が忖度ぬきに積極的に意見を交わす場が設けられています。賞は単に作品の優劣をつけるためのものではなく、アーティストの活動を社会に提示し、活かしていくためのひとつのチャンスです。作品を発表した6組の皆さんには、ぜひそのチャンスを次につないでいただきたいと願っています。

審査風景

アートコンペ総括

アートコンペでは、テーマは「応募者が自由に設定」とし、東京ミッドタウンを代表するパブリックスペースであるプラザB1Fを舞台に、場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集し、14回目となる今回は総計244作品の応募がありました(応募条件は39歳以下、かつ1名(組)1作品案まで)。

今年度新しく参加した2名を含む5名の審査員のもと、「コンセプト」「場所性」「芸術性」「現実性」「独創性」と5つの審査基準を掲げ審査を行いました。1次審査では、事前の書類審査で選出した提案の中から、12作品を選出。2次審査では、12組によるプレゼンおよび審査員との質疑応答を行い、最終審査に進む6作品を選出しました。2次審査通過者6組には制作補助金として100万円を支給し、2021年9月22日(水)より制作を実施。9月27日(月)の最終審査を経て、各賞(グランプリ1作品、優秀賞5作品)を決定しました。長時間に渡る審議およびこれまでの受賞作品の仕上がりと照らし合わせた結果、今回は予定していた準グランプリ1点の選出には至りませんでした。また、今後の期待を込めて、審査員特別賞を2018年以来顕彰する運びとなりました。コロナ禍を乗り越えた先にある未来を予感させるような作品が最終的に上位に残りました。

今年度の傾向としては、立体、絵画作品の応募数が最も多く、その次にインスタレーションと続く形となりました。地域別の応募状況としては、関東圏からの応募が多い状況が続いています。また、今年度は20代前半から半ばの若い年代からの応募が多かった点が特徴的でした。人との接触が制限される状況が常態化しつつある中、現在の状況や自分の内面にある問題意識と向き合う作品が多くみられましたが、次の時代の価値観の萌芽を予感させる作品や作家に注目が集まり、審査員たちによる真摯な議論のもと、6作品の受賞作を発表できることを嬉しく思います。

6名の受賞者には大きな拍手を送るとともに、今回ご応募いただきましたすべての皆さまに、心より感謝申しあげます。