アートコンペ

2023年 結果発表

TOKYO MIDTOWN AWARD 2023アートコンペ結果発表

アートコンペ概要

テーマ

応募者が自由に設定

東京ミッドタウンという場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集します。
テーマを自由に設定し、都市のまん中から世の中に、そして、世界に向けて発信したいメッセージをアートで表現してください。

審査員 金澤 韻、クワクボリョウタ、永山 祐子、林 寿美、ヤノベケンジ
グランプリ(賞金100万円)─── 1点
準グランプリ(賞金50万円) ─── 1点
優秀賞(賞金 各10万円)─── 4点
  • ※グランプリ受賞者を、University of Hawaiʻiのアートプログラムに招聘します(新型コロナウイルスの影響で副賞の内容が変更になる場合があります)。
応募期間 2023年4月24日(月)~5月15日(月)
応募総数 313点

グランプリ

TOKYO ELEVATION Type 0

  • TOKYO ELEVATION Type 0
  • 受賞者:

    タカギリヲン
    映像作家
    東京都出身
    素材:RGBLEDパネル、木材、ほか
    協力:武蔵野美術大学映像学科
    タカギリヲン

全てが地面の上に立っています。しかし、地面は掘らなければ理解することができません。
私は普段見えない足元の下、地面には物語のようなものが秘められていると考えます。
この作品は東京ミッドタウンを起点に、3つの地点を選びその地盤を映像によって再現し、擬似的にも見比べられるようにしたものです。
この作品を観ている人が今、立っている地面について思いを馳せられるような作品にしたいと考えています。

参考:東京の地盤(GIS版) - 東京都建設局
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/tech/start/03-jyouhou/geo-web/00-index.html

金澤 韻 講評

私は本作品をグランプリとしては推しませんでしたが、東京ミッドタウンのあの場所に設置するパブリックアートとしてふさわしい作品だったと思います。柱状図に馴染みのない私には、説明で情報を補った後も、抽象的なアニメーションとサウンドの組み合わさった作品として見え、その形と動きは若干の既視感をもたらしました。題材と表現の関係、そして展示技術にも、まだまだ課題があるのではないでしょうか。賞は伸びしろへの期待として受け取っていただけたらと思います。

クワクボリョウタ 講評

音と映像で鑑賞者の立つ場所から地中に思いを馳せる作品です。柱状図のアニメーションは抽象的な記号で示されつつなぜか蠢いて表示されています。私たちは不動の地盤というよりも、流動的なものの上に浮かんでいる存在であることを示しているのでしょうか。また、スクロールの果てに現れる暗闇や静寂に逆に地中の奥行きを感じさせます。同様のモチーフを用いた更なる展開に期待します。

永山 祐子 講評

私にとっては仕事上でよく目にする地盤調査の柱状図がこのような形で作品に昇華されるのを見てとても新鮮だった。地層という縦軸をゆっくり潜っていく感覚、時々地層の硬さによって変化する横軸のパターンの揺らぎ、都市の中に身を置いているとき、特に地下道を歩いていたり地下鉄にのって移動していると自分が一体どのくらい地下に潜っているのかわからなくなる感覚がある。特に地下鉄に通じるこの地下道だからこそ最もこの感覚の共有にふさわしい場所であると改めて感じた。日々なんとなく感じている感覚を人と共有する表現力のある作家でこれからの作品もとても興味深く楽しみである。

林 寿美 講評

タカギリヲンさんは、揺らがないと普段信じている私たちの足もとにある地面を疑い、そこに隠された物語を探るような作品を手がけました。人が数多く行き交う東京ミッドタウン地下通路の水平方向の動きに、地下深くに沈み込んでいく垂直方向の動きを組み合わせることで、もうひとつの次元に私たちを誘います。目に見える景色、見えない景色。耳に届く音、届かない音。心に生まれる感情、消えていく感情。そうしたものをホリスティックに体験できるのではないでしょうか。

ヤノベケンジ 講評

展示環境を徹底的にリサーチし、アニメーションの表現、音源の選択等様々なレイヤーを盛り込みながらも完成度の高い作品に仕上げていた。新しいパブリックアートの可能性も提示している。作家としての力量をもっとも感じた。

準グランプリ

風の噂 2023ver.

  • 風の噂 2023ver.
  • 受賞者:

    神谷 絢栄
    現代美術家
    東京都出身
    素材:木、アクリルパネル、紙、送風機
    神谷 絢栄

    ©林詩硯

自身の性被害経験を元に「性暴力被害者に対する社会の空気感」を視覚化するエアー抽選器を制作した。抽選器には、実際に被害者に投げかけられた言葉が「くじ」として入っている。現在日本では、24人に1人が性暴力に遭っているがその内の約6割が被害を公にしていない。この様な状況には、社会の風当たりの強さが少なからず関係している。本作はそんな二次被害の深刻さを人々と共有し、被害者を取り巻く社会を変えていく試みだ。

金澤 韻 講評

現代の問題意識をシャープに表現した作品です。暴力の構造を多くの人々が受け止められるレベルへ還元し、風に舞い上がるクジとして体験的に提示するアイデアは鮮やかでした。しかし特に評価したいのは、これまで一般的にパブリックアートと呼ばれてきた表現に、別の方向から挑んだことです。極めてクローズドな空間で行われる暴力、またネット上の言論空間に溢れる私的な言葉の暴力性について考察し、開かれた場所に展示しようとする知性と、作家としての態度に賛辞を送ります。

クワクボリョウタ 講評

カラフルな紙片が舞うこの装置は一見すると楽しげな景品のくじ引きそのものです。 一方、紙片に書かれた「あなたは〜」で始まるセンテンスは、あなたに投げかけられた言葉ともとれるし、あなたが誰かへ投げかけた/投げかけるかも知れない言葉とも受け取れます。大勢の人々が行き交う場所にこの作品は場違いでしょうか?作者は絶妙なバランスでシリアスさとユーモアを両立させ、結果として誰もが当事者であることを示唆することに成功しています。

永山 祐子 講評

センシティブな内容をより多くの人に対して、自然に触れ合うタッチポイントの作り方が秀逸だと感じた。実際にぐるぐると回るくじを見て、楽しげで思わず近づいてみたくなる。周りに置かれた開かれたくじに書かれた言葉は抽象的ではあるが何か潜在的に問題を暗に指し示している。言葉の選び方がとても重要な役割を担い、彼女は膨大なネット上の言葉から機械的に抽出している。その作業は本人に辛いのではないかと思うが、世間と共有し未来に向けるメッセージに変えるという強い意志を持って取り組んでいる姿は素晴らしい。さらに世間の反応をさらに作品に取り込みながら進化させて欲しいと思う。

林 寿美 講評

カラフルなくじがクルクルと回り、その楽しげな様子につられて引くと出てくるのは、どれも「あなた」に向けられた言葉です。「可哀想」「悪い」といった否定的なものもあれば、「優しい」「偉い」といった肯定的なものもあります。自分に贈られた言葉が、実は誰かが匿名のまま性被害を受けた人々に向けた言葉だと知ったとき、自己と他者、加害者と被害者の危うくも残酷な関係に気づかされます。

ヤノベケンジ 講評

繊細なメッセージをストレートに表現できる強い作家の意志を感じた。合わせて作品表現にたおやかさをプラスできれば更なる成長が見込める。期待できる表現者である。

優秀賞

タイパする輪郭線

  • タイパする輪郭線
  • 受賞者:

    ナカミツキ
    アーティスト
    兵庫県出身
    素材:ステンレス、LEDモニター、LEDケーブル、樹脂、顔料、フィルム、プロジェクター
    ナカミツキ

本作品はタイパ(タイムパフォーマンス)と都市に生きる人々の動きをアウトライン化するプロジェクトです。 タイパを重視した生き方をする都市の人々の動きを倍速文化とキーワード検索からヒントを得て制作しています。様々な媒体で出力する圧倒的な情報量の積層表現は、タイパされた人々の動きを視認することができます。動きと価値観の変化を見つめ、各個人が生活に置き換えて思考するきっかけになるのだと考えます。

金澤 韻 講評

ロトスコープ的に表現されたアニメーションから、モーションを抽出してさまざまな線と形、光へと展開した、楽しいインスタレーション作品でした。箱の中に世界観を表現するタイプの、アッサンブラージュの系譜の上で本作品を理解する時、より現代性が強調されてきます。ただ「タイパ」という問題意識が必ずしも作品上では明らかになっていないように感じました。今回のトライアルを経た、次の展開を楽しみにしています。

Trap project(愛のある)b [trap#16]

  • Trap project(愛のある)b [trap#16]
  • 受賞者:

    hellowakana
    アーティスト
    岐阜県出身
    素材:木、布、鉄、グラスウール、い草、糸、石
    hellowakana

天気が良い日中、庭に一時的に現れた布団の集団。
布団干しスタンドは痩せた骨から肉付きの良いフォルムに変わります。
これは布団屋の家に住む私がよく見た景色でした。
干す以外に用途の無いオブジェたちが風で揺れ動き生きているようで少し怖くもありました。( trap#16 episode:大きな庭は区切られた部屋 )
「住」に含まれる内装装飾・幼少期の記憶に寄り添い愛のある罠を仕掛けます。

林 寿美 講評

どの時代に作られたかがはっきりしないのに、どこか懐かしさを感じるこの作品は、実家が布団店を商う作者の幼少期の記憶が色濃く反映されています。庭の物干しにかけられた布団という最初のイメージは、室内で使うパーティションやキッチュな装飾品へと変化を遂げると同時に、縫い目(ステッチ)を思わせるパネル側面のロープと枝の細工など、遊び心をもって仕立てられたディテールが私たちの目を愉しませ、想像力を掻き立ててくれるでしょう。

Flourish

  • Flourish
  • 受賞者:

    Masutani May
    アーティスト
    シンガポール出身
    素材:ガラス、木
    Masutani May

ペースの速い都市で生まれ育った私は、変化の激しい環境で生活するストレスには慣れている。あらゆる出来事と歩調をあわせるのは疲れることもあるが、活力が湧いてくることもある。けれど日々の喧騒の中で自分らしさを見つけようとして、かえって逆の結果になった。表面的に色々な自分を装うようになり、次第に孤独は深まった。私は亡霊のように空っぽな日々を過ごし、徐々に「本当の自分」が萎んで、消えていくように感じた。

永山 祐子 講評

最初に提案を見た時はこのような繊細なガラスで人体の大きさの制作が可能なのだろうかと少し不安に思っていたが、最終的に見事に作り上げてしまった。最初はパーツごとに組み合わせるという方法であったが一体化することにも成功した。繊細な光を受けた人体の儚さは彼女のメッセージであるスピードの早い都市における孤独な精神の象徴として見えてくる。人体の抜け殻にも、精神の輪郭にも見えてくるこの不思議な存在と対峙した時、彼女の俯いた顔を見上げた時の感覚はとても特別なものであった。これからもさらに制作の幅を広げてほしいと思う。

明日は遊園地へ行こうね

  • 明日は遊園地へ行こうね
  • 受賞者:

    Liisa
    学生
    ハンガリー出身
    素材:<平面>水性インク、スクリーントーン、アクリル、色鉛筆、カッティングシート、その他
    <立体>ミクストメディア
    技術協力:杉野 十輝
    造形物制作協力:ドウノ ヨシノブ
    Liisa

マンガの制作技法で、言葉から解放された物語を経験してもらうような作品を目標としてきた。 連絡通路の真ん中に寝ている子供。近寄ると呼吸していることが見てとれる。その隣に、絵の中の子供と同じ誕生日の帽子が落ちている。それは絵と何か関連があるのだろうか。 疑問から始まる言葉のない物語。過去と現在、現実空間と架空の世界、静と動、懐かしさとちょっとした違和感、没入感と疎遠感。様々な時空を往還しながら多様な解釈を想像できる空間に挑んだ。

ヤノベケンジ 講評

画力もストーリー構成も力があり、漫画表現の可能性を広げる特殊な才能を持ち合わせている。今回の展開に立体表現のスキルをもう少し磨けば領域横断的なクリエイターとして驚異的存在となるだろう。

審査員総評

  • 金澤 韻
  • 金澤 韻
    (現代美術キュレーター)

    今回、審査を勝ち抜いてきた作品はどれも異なり、それぞれ良かったです。作家のみなさんが自分自身のテーマを大切にして制作していることがうかがわれました。展示では、成功するかわからないことにも果敢にチャレンジする姿勢が見られ、そういった意欲に触れる経験は、私自身とても勇気づけられるものでした。実際にいくつかは失敗もあったと思いますが、それでいいのだと思います。賞は通過点の一つに過ぎません。今回の試みを踏み台にして、どんどん未知の領域へと進んでいかれることを期待しています。

  • クワクボリョウタ
  • クワクボリョウタ
    (アーティスト/情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 教授)

    これだけいろいろなジャンル問わず、技法問わずの中で、何が優れていて何がグランプリなのかというのがとても難しい審査でした。どういう価値基準でどの作品が選ばれるかで変わってくると思います。今回も単純な優劣というのではなく、どういう価値基準を当てはめたときにこういう結果になったかという審査だったと思います。作り手として応募者にしたコメントが自分に返ってくるところもあり、自分としても勉強になった審査でした。今年は5年目で最後の年ですが、そういった意味でも学び多い審査会でした。

  • 永山 祐子
  • 永山 祐子
    (建築家)

    全体的に完成度が高く、最終審査は票が割れた。それぞれの審査員がどこにフォーカスして作品を見るかによって票入れの方向性が変わる。私自身、どういう視点で作品を評価するかの基準を決めるのがなかなか難しい回だった。本アワードの特徴として作家それぞれの将来性、未来を含めての審査と考えている。過去の審査でも作家の将来性を話し合うことも多かった。そのような視点から過去作と比べて大きくチャレンジのあるものを評価しようと考えた。また今回過去の審査の中でも初めて最終審査に残ったのが女性作家のみであったのが印象的であった。

  • 林 寿美
  • 林 寿美
    (インディペンデント・キュレーター/成安造形大学客員教授)

    パンデミックが終わり、自由な空気がようやく私たちの生活に戻ってきました。それと同じ空気を各作家の作品にも感じることができたように思います。自分自身に向き合うことの意味。その結果、生み出された表現をどのように外部に伝えていくか。かつては当たり前だと思っていたそうした自由を謳歌できることに感謝しつつ、それがいつかまた途絶えるかもしれないという緊張感も抱きながら、作品制作に取り組むことがこれからは課題のひとつになるのかもしれません。

  • ヤノベケンジ
  • ヤノベケンジ
    (現代美術作家/京都芸術大学教授/ウルトラファクトリー・ディレクター)

    2次審査通過後からの短期間でそれぞれの作家が想像以上の成果を残して作品を完成してくれた。どの作品もグランプリに値する完成度で選考に悩み、審査する側も審美眼を試される緊張感のある機会になりました。

審査風景

アートコンペ総括

アートコンペでは、テーマは「応募者が自由に設定」とし、東京ミッドタウンを代表するパブリックスペースであるプラザB1を舞台に、場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集。16回目となる今回は総計313作品の応募がありました。(応募条件は39歳以下、かつ1名(組)1作品案まで。)

今回は、新たに参加した2名を含む5名の審査員のもと、「コンセプト」「場所性」「芸術性」「現実性」「独創性」の審査基準で審査が進められました。1次審査では、書類審査で選出された作品の中から、12作品を選出。2次審査では、模型や参考作品を持ち寄った作家と審査員が一同に会する中で審査が行われ、最終審査に進む6作品を選出しました。2次審査通過者6組には制作補助金として100万円が支給され、2023年9月4日(月)より現地での設置を実施。9月8日(金)の最終審査にて、グランプリ1作品、準グランプリ1作品、優秀賞4作品を選出しました。個々に表現を突き詰めたハイレベルな作品が多い中、完成度や今後の展開への期待など様々な観点について議論され、評価が拮抗する審査を経て、最終的に選ばれたのは、東京ミッドタウンというパブリックスペースに展示されるからこそ、その意義や価値が際立つ作品でした。また、審査基準項目ではないものの、各作家の将来性についても焦点が置かれ、審査は長時間に渡りました。

今年度の傾向としては、立体の応募数(98点)が最も多く、その次にインスタレーション(91点)、絵画(65点)が続く形となりました。地域別の応募状況としては、前年度に続き、関東圏からの応募が大多数を占める状況となっています。また、今年から、コロナ禍以前の体制での募集・審査を実施。2019年ぶりに、東京ミッドタウン現地での説明会や2次審査の現地観覧を再開しました。今回は、自分自身のテーマを掘り下げるだけでなく、新たな表現に果敢に挑戦する応募者も多く、アワードが応募者それぞれのステップアップにつながっている様子が見られました。活発な議論のもと、6作品の受賞作が決定いたしました。

6組の受賞者には大きな拍手を送るとともに、今回ご応募いただきましたすべての皆様に、心より感謝申しあげます