デザインコンペ

2026年 結果発表

TOKYO MIDTOWN AWARD 2026デザインコンペ結果発表

デザインコンペ概要

テーマ

Care

誰もが不安を抱える時代に、デザインのちからでできること。
隣のひとや知らない誰か――他者を思いやるために必要なのは、豊かな想像力です。
不確実で不安定な世界がほんの少しやわらぐような、Careのアイデアを募集します。

審査員 倉本 仁、菅野 薫、中村 拓志、廣川 玉枝、山田 遊
賞 グランプリ(賞金100万円 + トロフィー)─── 1点
準グランプリ(賞金50万円 + トロフィー)───1点
優秀賞(賞金30万円 + トロフィー)─── 1点
ファイナリスト(7組)には表彰状を贈呈
  • ※グランプリ受賞者を世界最大規模の「ミラノサローネ国際家具見本市」開催中にイタリア・ミラノへご招待します(グループの場合は2名まで。社会情勢により副賞の内容が変更になる場合があります)。
応募期間 2026年4月10日(金)~6月30日(火)
応募総数 1,284点

グランプリ

やわらかい積み木

  • やわらかい積み木
  • 受賞者:

    秋本 美鈴
    デザイナー
    東京都出身
    秋本 美鈴

幼い子どもが、味噌汁の豆腐を潰さないよう手で口へ運ぶ姿から、触れるものに合わせて無意識に力を変える身体の感覚に着目した。やわらかい積み木は、誰もが親しんだ積み木に、強く握ると潰れてしまうほどの柔らかさを与えたプロダクト。いつもの手つきが立ち止まり、指先が相手の状態を探りはじめる。壊れやすさに気づき、力をゆるめる。その小さな身体反応を通して、ケアの感覚を呼び起こす。

倉本 仁 講評

誰もが幼い頃に親しんだ積み木に、繊細で儚い質感を与えることで、触れる人の振る舞いがどのように変化するのかを問いかける。そこに「Care」というテーマの本質を見出した鋭い視点が高く評価されました。ものと人、人と人、人と社会。その間に相手を思いやる気持ちが介在することで、関係性そのものが美しいものへと変わっていく。そんな可能性を感じさせてくれる、清々しく示唆に富んだアイデアでした。

菅野 薫 講評

言語も要らない、国境も存在しない、極めて原始的な遊びである積み木に着目した点と、「積み木とは硬くて壊れにくいもの」という暗黙の前提から疑って先入観を壊した点。何より、説明不要で、指先から身体的に入ってくる生理的な説得力。あまりに普遍的なものに意表を突く視点を持ち込んだ素晴らしいアイデアだと思います。

中村 拓志 講評

あえて重くした箱の中に収められた、触れれば変形してしまうほど繊細な積み木。崩れても積み直せるが、二度と同じ形には戻らない。その取り返しのつかなさが、指先に躊躇と加減を生みます。「Care」とは、自らの介入が相手を変え、ときに傷つけ、元には戻せないことへの畏れを引き受けることでもあります。「やわらかい積み木」は、そのことを指先の感覚だけで理解させるという、極めて抽象度の高い作品でした。

廣川 玉枝 講評

「やわらかい積み木」という、ありそうでなかった着想に大きな魅力を感じました。紙や絹、オブラートなどの素材を取り入れ、子どもたちが遊びながら、柔らかさやはかなさ、美しさに触れ、五感を通して「ケアする感性」そのものを育む作品です。今後、実際に子どもたちが使う場面で造形や耐久性、安全性の検証を重ね、さらにデザインを磨くことで、社会へ広く実装されていくことを大いに期待しています。

山田 遊 講評

見るからに繊細で軽く、柔らかで、握れば容易に壊れてしまうような素材で積み木を象ることによって、指先で注意深く触れ、大切に取り扱うことを促す提案は高く評価できる。紙製のため「積み木」のネーミングが相応しいか、パッケージの素材にスチールを選定したことや、本体の仕上がりやサイズ、パーツの数量など、今後、改善が見込める点は多く感じられたものの、提案者が独自に「Care」を解釈したコンセプトは普遍性が高い。

準グランプリ

仏の顔ガム

  • 仏の顔ガム
  • 受賞者:

    田中 健太郎(右)
    アートディレクター
    東京都出身
    辻村 慶太(左)
    プランナー
    三重県出身
     田中 健太郎(右)辻村 慶太(左)
    協力:株式会社ロッテ、吉坂秀毅/DFLT株式会社

アンガーマネジメントにおける「我慢する側の負担」に着目しました。人間関係を円滑にするため怒りを抑えることも必要ですが、限界なら感情を開放することも自分への大切なケアだと考えます。「仏の顔ガム」は、怒りの瞬間をユーモアで包み込むことと、我慢のキャパシティを可視化することを目指した商品です。誰もが「仏の顔も三度まで」の心で過ごせれば、忙しない日々にも少し優しさが生まれるはずです。

倉本 仁 講評

「仏の顔も三度まで」という諺を起点に、怒りを感じた時に仏顔の形のガムを噛むという、ユーモアに富んだ発想。味やパッケージに至るまで丁寧に作り込まれた完成度の高さも印象的でした。ハラスメントなど、感情や言葉が過度に抑制されがちな現代において、「怒ってもいい」という余白を残し、怒りそのものを否定せずに向き合う姿勢に、この提案の魅力を感じました。

菅野 薫 講評

怒ることは悪であるという極端な議論になりがちな現代、揉めるのが面倒でお互いに触れなくなり、他者への興味がなくなっていくことも、実は好ましくない。審議中には「真剣に物事に向き合っているからこそ怒るんだ」というような意見もありました。怒ることにも意味がある、一方で感情的になりすぎは良くないという中、単純なアンガーマネジメントではなく「3回までは我慢してね」という提案性が高く評価されました。

中村 拓志 講評

怒りたくなるたびに仏の顔を噛み、三度までは怒りを鎮め、四度目には怒ることを許すガム。アンガーマネジメントでありながら、最後に感情の解放を残した点を評価しました。他者への共感や配慮ばかりを求めれば、「Care」は自己犠牲へと反転します。ケアする側もまた感情を持ち、常に寛容ではいられない。その不完全さを許容することから、持続可能な「Care」のあり方を問い直した作品です。

廣川 玉枝 講評

「仏の顔も三度まで」という親しみのあることわざを現代的に再解釈し、怒りを鎮め、気持ちを整えるガムへと展開した着想が独創的です。噛むという日常的な行為を、感情を解きほぐし、心をケアする体験へと結び付けています。造形やパッケージにも贈り物としての魅力があり、ロッテの専門的な協力によって、香りや見た目を含めた完成度も高まりました。ユーモアと実用性を備えた提案として、ぜひ商品化へつながることを期待します。

山田 遊 講評

「仏の顔も三度まで」という日本の諺を素直に活かし、日常生活において怒りの感情が生まれた際に、仏さまの顔を擬したガムを噛むという行為によってアンガーマネジメントを目指すという提案。一見ユーモア性の高いプロダクトではあるものの、ガム本体の味の設計から、パッケージの作り込みに至るまでの完成度が非常に高く、また、怒りという感情を根本から否定することなく、余地を残している点についても好感を抱いた。

優秀賞

由来名刺

  • 由来名刺
  • 受賞者:

    軽米 かおる(左)
    コピーライター
    神奈川県出身
    砂田 肇(右)
    アートディレクター、デザイナー
    埼玉県出身
    軽米 かおる(左) 砂田 肇(右)

名前は、家族が子どもの未来を思って贈る、短い祈りである。ビジネスの場で交わされる名刺に、名前の意味や由来を添えることで、名刺をその人の所属や肩書きを示す「記号」から人物やルーツを表す「情報」に変える。家族が込めた思いを乗せた『由来名刺』は、仕事で出会うたくさんの人たちを、過去や未来のある「一人の人間」として見つめる瞬間を生み出します。

倉本 仁 講評

「名刺」という既存のコミュニケーションツールを、肩書きや役割の重要度ではなく、その人が生まれた時に親から託された「名前」に目を向けるものへと転換した点が印象的でした。相手の立場や肩書きに左右されず、その人自身を想像し、尊重することから始まる新しい人間関係のあり方を提示した、「Care」の本質にも通じる提案だと感じました。

菅野 薫 講評

名刺は、どうしても所属や肩書きに目がいくし、そこで評価されがちですが、生まれた瞬間の、まだ何の実績もないときに親が祈りを込めてつけた名前に思いを馳せることによって、その人自身の人格に視点が行きます。偉い人だから、下っ端だから、ということから離れて、人と人の関係を作るための想像力を働かせるという意味で、非常にケア的です。出会いに、根源的で新しい関係をもたらしてくれる個人的に一番好きなアイデアでした。

中村 拓志 講評

その人がまだ何者でもなかったときに、親から託された名前の由来が書かれた名刺。所属や役職が社会的な差異を示すのに対し、由来名刺は、誰もが誰かに願われた存在であるという共通性をひらきます。「Care」を自律した主体から他者へ向ける配慮ではなく、誰もがまずケアされることから生を始めたという事実から考える。その先行性から、自律を前提としてきた人間観そのものを問い直した作品です。

廣川 玉枝 講評

「名前」を親から贈られた、それぞれの大切な想いが込められたものと捉え、その由来を名刺に記すことで、一人ひとりの背景や物語を伝えるコミュニケーションデザインです。従来の自己紹介を一歩深め、名前を印象づけるとともに、初対面の会話を自然に広げる仕組みに魅力を感じました。名刺という身近な媒体に新たな価値を与える提案として、広く社会に浸透していくことを期待します。

山田 遊 講評

日本のビジネスの場で挨拶として盛んになされる名刺の交換。会社の知名度や所在地、また役職や肩書きといった情報ばかりに目が向く中、誰もが持つ名前に着目し、親から贈られた際の由来を名刺上に記載した。どうしても表層的で堅苦しさを感じるコミュニケーションを、よりパーソナルな部分に一歩踏み込むことで、挨拶の場が和やかになる、アイスブレイク的な効果をもたらす「Care」のデザインを評価した。

ファイナリスト

How Not to Need It

  • How Not to Need It
  • ファイナリスト:

    須田 紘平
    デザイナー
    長野県出身
    須田 紘平

カッターの正しい使い方や、靴擦れにならない方法など、絆創膏を使わないで済むようなヒントが印刷された絆創膏の提案です。表記されたことが理由で使う人にとっても、違う理由で使う人にとっても「今後、絆創膏を使わなくて済むように」というメッセージは、ユーザーにとって新しい「Care」の形になります。

倉本 仁 講評

絆創膏のパッケージに、怪我をしてから使うための情報だけでなく、「そもそも怪我をしないように」という注意喚起を添えた、優しさに満ちた提案に心を打たれました。絆創膏が使われずに済むことこそが最も良い状態であるという、製品を売ることを目的とした開発では生まれにくい商業的なジレンマを内包している点も魅力的です。その矛盾をあえて肯定し、ケアに満ちた製品のあり方を描き切った、強く心を惹かれる提案でした。

おつかれさまで麩

  • おつかれさまで麩
  • ファイナリスト:

    SOKI
    染宮 悠生(右)
    デザイナー
    埼玉県出身
    北島 安結(左)
    デザイナー
    千葉県出身
    SOKI 染宮 悠生(右)北島 安結(左)
    協力:芦埜 遥平、入山 紫織、小笠原 恵、鹿島 理佳子、河原 宏樹、染宮 杏菜、高島 美和子、横山 治

夜遅くまで机に向かう背中に、「がんばれ」とは少し言いにくい。
そんな夜は、言葉の代わりに温かいお味噌汁を。
お椀に浮かぶ「おつかれ」の文字が、張り詰めた心をくすっとほどきます。
既に頑張っている人に向けた、優しいエールのアイデアです。

山田 遊 講評

他者をねぎらう気持ちをお麩の「おつかれ」の文字で表現した味噌汁の提案。お麩用のフォントはもちろん、お麩自体の試作や、フリーズドライの味噌汁としての開発を念頭に入れたプロトタイプの制作、さらにパッケージのデザインに至るまで、非常に完成度が高かったことが印象的だった。一方でその完成度の高さが故に、事前にねぎらう気持ちがネタバレしてしまう状況を、さらなる発想の積み上げによってカバーして欲しかった。

ストレッチする赤信号

  • ストレッチする赤信号
  • ファイナリスト:

    SOKI
    染宮 悠生(右)
    デザイナー
    埼玉県出身
    北島 安結(左)
    デザイナー
    千葉県出身
    SOKI 染宮 悠生(右)北島 安結(左)
    協力:芦埜 遥平、入山 紫織、小笠原 恵、鹿島 理佳子、河原 宏樹、染宮 杏菜、高島 美和子、横山 治

赤信号のピクトグラムが、ゆっくりと首を回し、アキレス腱を伸ばす。
道行く人々のストレッチを自然と誘発し、スマホに目を落としていた人や、忙しなく働く人々に「自分へのケア」を思い出させます。 無機質な交通信号を、身体のほぐしと心のゆとりを街全体に広げる装置へ変えるアイデアです。

廣川 玉枝 講評

誰もが日常で経験する赤信号の待ち時間を、身体を動かし、心や身体をケアする時間へと転換した着想が魅力的です。信号という公共の仕組みに新たなアイデアを組み込むことで、個人の健康だけでなく、その場にいる人々の空気や関係性まで穏やかに変えていく可能性を感じました。何気ない待ち時間に豊かな価値を生み出す、社会性の高いデザインとして、ぜひ実装されることを期待します。

ひかりの散歩

  • ひかりの散歩
  • ファイナリスト:

    CHOCO
    趙 子鈺(左)
    デザイナー
    中国出身
    李 奕巧(右)
    プロダクトデザイナー
    中国出身
    CHOCO 趙 子鈺(左) 李 奕巧(右)

    ©horiguchi

室内では、植物が十分な光を得られないことがある。そこで植物を部屋に固定せず、人とともに外へ連れ出す。散歩をしながら光に当て、水を替え、日々の変化を観察する。こうした小さな行為は単なる管理ではなく、人と植物の間に生まれるケアである。植物と過ごすことで、人も光や天気、季節の変化を意識し、植物を「ともに暮らす存在」として感じるきっかけになる。

中村 拓志 講評

水耕栽培の植物を肩にかけ、光や風を求めてともに移動する花器。植物の状態に応じて移動するうちに、人もまた光や風、季節の変化に気づかされていきます。それは、植物をケアする人間が行き先を決めるのではなく、植物の要求によって導かれるという、主導権の揺らぎを生むかもしれません。「Care」を相互変容として捉え、人間を環境の外部に立つ管理者から、その一部として応答する存在へと引き戻す感性を、身体的な経験として提示した作品です。

カトラリーを備えた缶詰

  • カトラリーを備えた缶詰
  • ファイナリスト:

    豊福 昭宏
    デザイナー
    福岡県出身
    豊福 昭宏

日常的に使えて日持ちもする缶詰。防災時の備えとして考えている人も多いと思います。
しかし、実際に被災し缶詰を食べる時に、多くの人がカトラリーまで準備していないことに気付くのではないでしょうか。
本提案では缶詰のプルタブをカトラリーにすることで、
被災時に起こるかもしれない小さな落胆を無くしたいと思っています。

倉本 仁 講評

缶詰を食べる際に必要となるカトラリーを、あらかじめ缶詰そのものに備えるという、シンプルながら着眼点の鋭い提案です。避難時や被災地など、十分な環境が整わない状況での飲食体験にまで想像を広げ、日常では見過ごされがちな不便に「Care」の視点から向き合っています。すでに世の中に広く普及している身近なプロダクトにも、まだ改善できる余地があることを示してくれた点が印象的でした。

Bellhorn

  • Bellhorn
  • ファイナリスト:

    明神 史和
    パン屋
    高知県出身
    明神 史和

Bellhornは、「警告」ではなく「声かけ」という新しいコミュニケーションを車社会にもたらす提案です。人間の拡張された身体とも言える車に、危険を知らせるために使われてきた従来のクラクションとは別に、感謝や配慮を伝える優しい音の選択肢を加えることで、ドライバー同士だけでなく、行き交う歩行者、そして周囲の社会との関係性をやさしく変えていきます。路上にささやかなケアの言語を。

菅野 薫 講評

そもそも自動車のホーンは、周囲に危険を知らせ、事故を防ぐための装置。ドライバーがドライバーや歩行者とコミュニケーションを取るための道具ではない。しかし、運転者たちが勝手にそこに意味を与え、独自の伝達手段に変えてしまった。既にそこに発明がある。ここではその耳障りの鋭い音を柔らかくしようという視点が評価されました。一方で柔らかくしてしまうことで、道路の騒音の中でちゃんと伝わるのか疑念が残ったのが残念。

TAC TAPE

  • TAC TAPE
  • ファイナリスト:

    山岸 奈緒
    コピーライター
    神奈川県出身
    山岸 奈緒

TAC TAPEは、視覚や文字に頼らず、手の感覚で判断を助ける触覚のテープ。点・線・曲線・交差の4つの凹凸をものに貼ることで、探す、選ぶ、向きを判断するなどの行動を支える。暗い場所や視線を向けられない場面など、誰にとっても起こりうる日々の小さな迷いを減らし、自然に身体が動くための手がかりをつくる、感覚のインターフェース。

山田 遊 講評

テープの表面に複数のパターンの凹凸を施すというシンプルな手法によって、どうしても視覚に頼ることの多い、物の種類や場所などを特定し、識別する行為。触覚によって認知を促進する仕組みとしてのデザインを評価した。一方で凹凸のバリエーションだけでなく、例えばスベスベとした滑らかな触り心地や、ザラザラとした表面の手触りなど、微細な触覚の表現によって差異をつくることでより完成度は上がるだろうと感じた。

審査員総評

  • 倉本 仁
  • 倉本 仁
    (プロダクトデザイナー)

    今回は、全体を通して作品のクオリティが非常に高かったという印象を持っています。その背景には、アイデアの面白さだけでなく、それをデザインとして発展させていく技術や経験値の高さがあり、今年のファイナリストには例年以上に経験豊かなクリエイターが揃っていたのではないかと感じました。

    審査やプレゼンテーションでは、「そもそもデザインは、すべてケアからできているのではないか」という、とても興味深い議論もありました。目の前の問題を少しでも良くしたい、暮らしや社会をより良く、美しくしたいと願い行動すること自体が、人や未来への思いやりであり、デザインの根底にある「Care」なのではないでしょうか。

    その上で今回、最終的な評価を分けたのは、「Care」というテーマをどう捉え、そこからどのような新しい視点を提示できたかという、コンセプトの軸だったように思います。

    グランプリの「やわらかい積み木」は、まさにそこが際立っていました。新鮮なプロダクトでありながら、誰もが子どもの頃に体験してきた、人との距離感や相手を思いやる感覚、そして人や社会との関係の中で成長していくという普遍的な感覚を、小さな積み木に重ね合わせています。「なるほど」と共感できる普遍性と、そこから生まれる新しい視点。その二つが強く響き合った、素晴らしい作品だったと感じています。

  • 菅野 薫
  • 菅野 薫
    (クリエーティブディレクター/クリエーティブテクノロジスト)

    今年は、例年と比べてもプロトタイプの段階での出来が非常に良かったですし、プレゼンテーションのレベルも高かったと思いました。今年のテーマは「Care」。分断の時代に、他者にどう想いを馳せるか、配慮した行動を促せるかが問われました。そもそも「デザイン」という行為そのものに社会的課題の解決や便利さをつくるという点で、ケアに相当する観点が元々含まれています。その中であえて「Care」をメインテーマとして取り上げ、クライテリアとして掲げたアワードにおいて、デザインという行為の持つ機能や意味と、あえて課題としたケアの関係性をどれほどの精度で捉えて意識しているかという点で評価が分かれたと思います。

    最終審査で残った10作品はいずれも高い評価に値するものでした。グランプリや優秀賞に入ったものの評価が高かったのは言うまでもないですが、最後まで議論が割れ、僅差で優秀賞以上に入らなかった「ストレッチする赤信号」「How Not to Need It」などは、審議の中で企画者が意識していた「Care」をより強く感じることとなりました。ちゃんと自信を持っていただいていいと思います。

  • 中村 拓志
  • 中村 拓志
    (建築家)

    高齢化、孤独、災害、気候変動など、現代には効率化や機能化だけでは応えられない課題が数多くあります。デザインは問題を発見し、それを鮮やかに解くことで発展してきました。しかし、その達成感が、問題の背後にある構造や、なお残り続ける困難への想像力を鈍らせ、ときに対象を思い通りにできるという感覚さえ生んできたのではないでしょうか。だからこそ今、答えを与えることとは異なるデザインの可能性として、Careを考える必要があります。

    今回の審査では、その可能性が異なる角度から具体化されました。「やわらかい積み木」は、介入によって相手を変えてしまう「不可逆性」を、「由来名刺」は、誰もがケアされることから生を始めるという「先行性」を示しています。「仏の顔ガム」は、ケアする側も常に寛容ではいられないという「不完全性」を受け入れ、「ひかりの散歩」は、ケアする側もまた作用を受ける「相互変容」を提示しました。

    そこに共通するのは、Careを善意や配慮の提供に留めず、人間のあり方そのものから捉え直す視点です。私たちは完全に自律した存在ではなく、常に何かに作用し、同時に作用されながら生きています。デザインは、世界を変えるためだけでなく、世界によって自らが変わるための営みにもなり得る。Careは、他者や環境とともに生きるという地点から、デザインの可能性を捉え直す視点なのだと思います。

  • 廣川 玉枝
  • 廣川 玉枝
    (クリエイティブディレクター/デザイナー)

    今回「Care」というテーマを通して、デザインそのものが人や社会をケアする行為だと改めて実感しました。ケアとは特別な行為ではなく、自分や他者を思いやり、身近な違和感や小さな気づきに目を向けることから始まります。そこにデザインが介在することで、目には見えない愛情や慈しみが波紋のように広がり、人と人との関係性や環境をより豊かなものへと変えていくのだと思います。そうした思いやりを内包したデザインが社会に広がることで、世界はより穏やかで、美しいものになるのではないでしょうか。

    誰もが経験する何気ない日常を新たな視点で捉え直し、「ありそうでなかったもの」を形にしていたことが、とても印象的です。なかでも、積む、噛む、身体を動かすといった、言葉を介さず直感的な体験を促す提案には、身体感覚を起点に意識や行動を変えていく、デザインの本質的な力を感じました。「ストレッチする赤信号」や「おつかれさまで麩」のように、日常の何気ない時間や行為に新たなアイデアを加え、場の空気を和やかに変えていく発想も魅力的でした。

    今回生まれた提案が社会へと実装され、私たちの暮らしをより豊かにしていくことを期待しています。

  • 山田 遊
  • 山田 遊
    (バイヤー)

    一次審査から今日の最終審査を経て、まず、それぞれの応募者が考える「Care」の形が、あまりに多様であることを感じました。ケアとは一言で言うなら「気遣い」を指すと思いますが、日常のそこかしこに潜む多種多様なケアによって、私たちの社会は成り立っていることを、改めて強く実感しています。

    また、今回のファイナリストのうち、中国からの1組を除いた8組が日本からのエントリーでしたが、日本特有の「黙して語らず」「空気を読んで察する」といった非言語的な文化背景から産まれた「Care」の提案が多く見受けられたように思えます。

    その中でグランプリに選ばれた「やわらかい積み木」は、上述した日本的なカルチャーを超えた、ある種の普遍性が感じられる提案でした。ファイナリストのプロトタイプやプレゼンテーションのクオリティは、全体的に高い完成度で仕上げられていた中で、僅差ではありますが、そのコンセプトの置き方において頭一つ抜きん出た印象がありました。

    今後ケアという概念やアクションは、日本のみならず、世界中の社会で、より重要性を増していくだろうと個人的には捉えており、非常に意義深い審査会でした。

審査風景

パートナー賞

受賞者・ファイナリストの中からパートナー企業・機関が選出した方へ、副賞としてパートナー賞が授与されます。
パートナー:Ripple Collective

受賞者: 秋本 美鈴 《やわらかい積み木》

内容: Ripple Collectiveアブダビ社のスタジオへ招聘、展示や共同プロジェクトを行う機会

Nuno Abreu(Ripple Collective 創業者・グループCEO)選出コメント

Ripple Collectiveが大切にしているのは、無駄のないシンプルさの中に、時代を超えて受け継がれる美しさを込めたデザインです。本作品は、持続可能なクラフトマンシップと心のこもったストーリーテリングによってその美学を見事に体現するとともに、新たな視点を通じて私たちの可能性を広げてくれる存在だと確信しております。その思いを込めて、本賞を贈呈いたします。

デザインコンペ総括

19回目となった今年のデザインコンペは、「Care」をテーマに掲げ、応募時点で39歳以下という条件のもと、5人の審査員により厳正な審査を行いました。

分断が叫ばれだれもが不安を抱える現代において、他者を思いやる豊かな想像力を体現するような「Care」のデザインを募集し、総計1,284点の応募が寄せられました。日常の温かな気づきを起点としたプロダクトから、他者との深いコミュニケーションを紡ぐ企画まで、多様な視点を持った作品が集まりました。

「デザイン力」「提案力」「テーマの理解力」「受け手の意識」「実現化につながる」の5つの審査基準のもと、一次審査で10作品を選出。二次審査では模型とプレゼンテーションによる審査、質疑応答を経て、グランプリ1点、準グランプリ1点、優秀賞1点、ファイナリスト7点を決定いたしました。

一次審査ではケアという概念の多義性を示すように意見が分散したなか、議論を経て10作品を選出しました。ブラッシュアップを期待する審査員のアドバイスを受けて二次審査へ進んだファイナリストには、実務で経験を積んだクリエイターも多く、質の高い提案が並びました。

グランプリ《やわらかい積み木》、準グランプリ《仏の顔ガム》、優秀賞《由来名刺》をはじめとしたファイナリストの作品はいずれも、ケアする側とされる側に分かつことなく、日常の身近なツールや行為を通して人と人との関係性を温かく捉え直す提案でした。

なお昨年度より、受賞者およびファイナリストの中から選ばれた作家にパートナー企業・機関より副賞が贈られる「パートナー賞」が創設されました。本年度はRipple Collectiveより、《やわらかい積み木》を制作した秋本美鈴さんに同賞が贈られました。

生成AIの普及などにより制作プロセスが変化するなか、一人ひとりがケアの意味を問い、思索を突き詰めて形に昇華する価値を改めて実感するアワードとなりました。

今後も引き続き受賞者・入選者の支援とコラボレーション機会創出に努めてまいります。ご応募いただいたすべての方に、心より御礼申しあげます。ありがとうございました。