インタビュー 高橋 淳・テキスト 大庭典子
―― 2014年のデザインコンペのテーマは、『和える』でした。遠藤さんの作品「origami tale」は、1枚の折り紙を折っていくことで、絵柄が変わり、物語が展開していくという、“折り紙”と“物語”が融合したユニークな作品ですが、発想から完成までのプロセスを教えてください。
遠藤:この作品は、コンペのテーマからイメージしてできあがったものではなく、もともと自分がつくっていた作品があって、「和える」というテーマを知ったときに、ぴったり合うんじゃないかと思って応募したんです。
―― ということは、応募する前に作品はすでにあったということですか?
遠藤:はい、アイデアはありました。大学の卒業制作でつくった作品がもとになっています。さらにさかのぼると、大学4年生のときに、東京アートブックフェアに参加したときに製作した「折り鶴の本」が「origami tale」の発想につながっていますね。
―― どんな作品だったのでしょうか。
遠藤:グラフィカルな柄の折り鶴がつくれる本です。折り紙って単色のものが多かったので、違うものをつくってみようと。柄を考えるために、折り紙を折ったり広げたりしているうちに「正方形のこの部分が顔になるんだ」とか「ここが羽根に」というのがわかってきました。そのときにふと顔の部分に目やくちばしがあったら…と思いついて、最終的に柄だけでなく、イラストも入れて仕上げました。
アートブックフェアで販売した「折り鶴の本」
―― まわりの反応はどうでしたか。
遠藤:けっこう評判がよかったんです。私にとっては、実際に買ってくれた方と話せたことが大きな体験でした。自分の作品が人や社会とつながったことを実感できて、嬉しかったですね。人に反応してもらえて、自分が感動したというか。
―― 最終的には「物語」と「折り紙」が融合する形に完成するのですね。
遠藤:そこから発展して、折っていくと、女の人から鶴に絵柄が変わっていく、「鶴の恩返し」に沿った作品などを卒業制作でつくりました。人が何か動作を加えることで変化が起きるのが好きなので、“折る”というその人の動きで、紙の柄や物語が変化していく、そこにおもしろさや楽しさを感じてもらえたらという想いがあります。
遠藤さんの卒業制作の作品
―― 応募の際のお話もお伺いしたいです。1次審査に通過するために工夫した点はありましたか?
遠藤:たくさんある書類のなかに埋もれないよう、コンセプトを言葉で補うのではなく、見た瞬間にどれだけビジュアルで伝えられるか、惹き付けられるかをよく考ました。既に卒業していましたが、大学の先生にアドバイスをもらいに行って、何度も何度も練り直しました。
―― 当時は社会人1年目で会社務めをしながら、応募したそうですね。大変でしたか?
遠藤:当時も今もデザインとはまったく関係のない会社で、窓口や事務業務を行っています。なので、平日の仕事終わりや土日をメインに企画書の準備や印刷、撮影などの準備をしました。家も職場も福島県なのですが、近くには印刷設備も撮影器具もなかったので、山形の大学に行ってお借りして。今考えると、時間や物理的な距離の制約も多くて、かなりキツかったですね…。締め切りギリギリでようやく出せたという感じです。
ORIGAMI TALEの応募シート
―― 本アワード以外で、コンペに出した経験はありましたか?
遠藤:Tokyo Midtown Award が初めてのコンペ挑戦でした。
―― 最初の応募で審査員特別賞・小山薫堂賞の受賞の快挙!どんな気持ちでしたか?
遠藤:受賞の連絡は、仕事帰りの車中でいただきましたが、駐車場に止めてドキドキしながら折り返し電話したときのことは、今でもはっきりと覚えています。電話を切って、車中でひとり叫ぶくらいうれしかったです!
―― しかも「origami tale」は受賞後、商品化もされましたね。
遠藤:これは本当に予想外の出来事でした。出版社の方が本として商品化してくださったのですが、その方も、東京ミッドタウンの「サントリー美術館」を訪れた際に、脇で行われていた受賞作品展示を偶然目にしてくださったようで。受賞の興奮もおさまりつつあった受賞翌年の6月にそんなお話をいただいて、驚きつつもすごく嬉しかったです。
―― 出版社さんの商品化に踏み切った決め手については、何か聞いていますか?
遠藤:「アイデアがいい、ありそうでなかった作品」と言っていただきました。
―― 商品化にあたってこだわった点などはありましたか?
遠藤:小さな子が手にして楽しめるように、丸文字を多く使ったり、折り紙の色もあまりビビッドではなく、やわらかい風合いにして欲しいなど、いろいろと意見を出しました。反面、自分ひとりではまったく考えの及ばないことや分からないことがたくさんあって、細かく教えていただきました。子どもが万が一口に入れてしまっても大丈夫な安全な紙を使用したり、折り紙の著作権や値段設定のことなど、お任せした部分も相当あります。
商品化された「おはなしおりがみ」
―― 仕事をしながら本の製作は、とても大変そうですが…。
遠藤:やはり色味などは現物を見ないとわからないので、東京と福島の距離がもどかしかったですね。仕事が終わったらすぐ郵送物を確認、修正を書き込んですぐに送り返す!みたいな(笑)。
―― それを超えて、仕上がりを見たときは?
遠藤:動、のひと言です。「自分の名前が載っている!」と、今も見るたびに思います。私自身も小さなころから折り紙が好きでしたが、そのとき「折ったものをどうしよう。捨てるのも気が引けるし」と悶々としていた記憶があるんです。この作品を通して、折ったあとに“飾る”という提案をできたとしたら、それも嬉しい。自分の作品が全国の書店に並んで、知らない場所で誰かが手にするという未知の世界にワクワクしています。
―― ちなみに、2016年のデザインコンペの応募は考えていますか。
遠藤:是非チャレンジしたいと思っています。というのも、今の環境では、ものづくりから離れた場所にいるので、普段はなかなか自分を表現する場所もチャンスもありません。ただ、そのフラストレーションが積もりに積もって、作品が生まれることもあるので、いい機会かと思っています。
―― 最後に、これから応募を考えている方にメッセージをお願いします。
遠藤:今、応募したいけれど別の仕事をしていて時間が取れないと躊躇している方も、何かを削ってでも挑戦したらいいと思います。応募するだけでも、毎日の生活では味わえない気持ちを感じられますし、私は働きながらでも挑戦してよかったと身をもって断言できますので、ぜひトライしてください。
- 遠藤 可奈子 Kanako Endo
東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科2014年卒業。「origami tale」にて“Tokyo Midtown Award2014 デザインコンペ 小山薫堂賞”を受賞。2015年12月「おはなしおりがみ ORIGAMI TALE」を扶桑社より出版。