INTERVIEW

INTERVIEW

アーティストとしての存在を
確立できたグランプリ

Tokyo Midtown Award 2016 アートコンペでグランプリを勝ちとった後藤宙さん。
大学院に在籍しながら、糸を使って視覚や体感にまつわる言語外の思考を作品化している。

本アワードについて、「勝ちたいなと思って真剣に取り組めば、自分の想っている何倍も得られるものがあるコンペです」と語る後藤さんに、アワード全般について、また、ハワイ大学のアートプログラムに参加して感じたことなど、幅広くお話を伺った。

後藤 宙(ごとうかなた)さん

update_2017.04.14/text_木村早苗

―― 昨年、「Tokyo Midtown Award」アートコンペでグランプリを受賞されました。受賞前後でのご自身や周囲などに何か変化は感じられましたか?

後藤 宙(以下、後藤):ギャラリーや学内での展示など、それまでもさまざまな活動はしてきたのですが、何を持って作家のデビューなのか、美術のシーンにいるのかがあまりわからなかったんです。自分の軸がなかったというか。それがこのグランプリをいただいたことで、自分のイメージが外に現れるきっかけになった気がします。「あの作品の人だよね」と言ってもらえる名刺的なものができたというか。

―― アーティストの道を選ばれたのはいつ頃?

後藤:大学3年の冬頃でしょうか。大学院ではアートに集中できる学部に進み、徐々に…という感じです。ただ遡ると、最初のきっかけは大学1年にあったんです。作品をたくさんの人に見てもらいたいと「リキテックス アートプライズ」に出品したのですが、要素を盛り込みすぎてしまって。なのにグランプリは自分と同世代の学生で、それがものすごく悔しかったんです。ただ彼のブースや個展を見ると「ああこういうのが芸術に真摯に取り組むことなんだ」と思い知らされ、目を開かされた感じがしました。そこで別のコンペには、雑味なしの1ネタを意識したら賞もいただけ、そこでこの感覚に繋げていけばいいと。それで最初の方向性が見えたんですよね。

―― なるほど。普段はどのようなテーマを作品に込めて制作されていますか?

後藤:大きく言うと、時代や地域を超える、人の普遍的な感性に響くものです。素材や法則を介して深く印象を残す作品というか。僕は、数学的な単位や法則、幾何学などは、人類や環境に変化が起きて世界の形が変わっても残る共通言語だと捉えています。その普遍的な法則を、僕のオリジナルの形で作品として表したいんです。制作にかかる恣意性と普遍性は一見対極にあるようですが、その両方を統合することで、見る人により深く刺さる作品になると思っています。

後藤 宙(ごとうかなた)さん

後藤 宙(ごとうかなた)

―― 受賞作もそうした思考プロセスに沿って制作されたのですか。

後藤:はい。グランプリを取った鉄を使ったシリーズはほぼそうです。実は、アワードに出品する半年前に制作した大学院の卒業制作展用の制作プロセスが元になっています。8作品のシリーズもので、それぞれ黄金比や幾何学、トラス構造などのテーマがあったのですが、制作中にさまざまなイメージが蓄積されてきたので、統合して作品にしたいと考えたのです。また、密度がある物をつくりたかったこともあります。普遍的な感覚はたいていシンプルな形で表されがちだし、あまり外れなければそれっぽいものにもなりやすいし、近道のように思えます。でもそれに対して自分なりの幅を持った形も考えないと、そのバランスが真の正解かどうかを判断できないんじゃないかなと。自らの恣意性のコントロールができないと正しい審美眼も身につかないので、その訓練のためにも密度があるものにしたかったのです。僕の中では明確なモチーフを持たない純粋抽象と位置づけています。

―― たくさんのコンペに出品されていますが、Tokyo Midtown Awardへの出品は初めてでしたか?

後藤:はい。2010年の公開2次審査を見学に来ていたので、その存在は知っていました。ただ年齢制限までにまだあるからと先のばしにしていたら、大学院の教授から出品してみてはと後押しがあり出品を決めました。

―― 公共空間での展示に対し、何か意識された点はありますか。

後藤:僕自身、その存在を身体で受け止めるというか、体感するスケール感の作品が好きなんです。小さい作品は視覚で捉えますが、パブリックアートのようなサイズだと身体で感じられますよね。実は卒業制作ではその部分がかなり消化不良でした。大きい作品をつくりたい欲がすごかったので、空間に広がりがあるほうがむしろよかったんです。受賞作は約2.4m四方なので見上げる必要があるし、ハシゴがないと上部のディテールも見えないと思います。

Tokyo Midtown Award 2016 アートコンペ グランプリ受賞作品『意識の象徴』

Tokyo Midtown Award 2016 アートコンペ グランプリ受賞作品『意識の象徴』
<作品コンセプト>これまで制作してきた彫刻作品では、幾何学や黄金比、トラス構造などと対話してきた。その中で表象として浮かんできたものを、絵画的な視点からドローイングによってすくい上げた。象徴的かつ視覚的な現象を纏った今作が、多くの人の目に言語外のメッセージを刻むことを願う。

―― その空間が六本木という東京のまん中にあるパブリックスペースで、作品を街行く人々が観るという状況はいかがですか。

後藤:それが僕は好きなんですよ。僕の作品はそこまで高度な読解力が必要なわけではなく、視覚や体感でアクセスできるので、むしろ多くの人に見てもらった方がいいのかな、と。自分でも作品を理解しきれていない感覚もあるので、知覚の幅を広げてくれるのであれば、誰でもどうぞ、という感じです。もし社会に影響を受けるような作品、例えば文脈やコンセプトの説明が必要な作品の場合は、見る人がじっくりとコミュニケーションできる空間がいいと思いますけどね。

―― 出品の上で、また制作の上で苦労した点はありましたか。

後藤:物理的な部分ですね。外注プロセスが必要な大きな鉄の作品に初めて挑戦したので、いつもお願いする職人さんだけど本当に形にできるのか? という不安がありました。CADで設計図をつくっていただくのに、壁と支柱の位置を描くのに高さ、平面、距離の3点だけ指定するようなやり取りなので、完成形がさっぱり見えなかったんです。人の手とCAD両方を駆使してやっと形になるのに、そこからの組み立ても自分でやるからまた大変だし…みたいな(苦笑)。

―― では、よかった点は。

後藤:テーマが自由なことでしょうか。僕のようにテーマがある人は好きにつくれるほうが、元気に取り組めると思います。

―― 本アワードの魅力ってなんだと思いますか。

後藤:すべてが魅力的だと思います、発表できる機会、審査員、賞金、グランプリ副賞のハワイ。一通り揃っているし、制作以外にかかる労力、例えば出品料や運搬の保険などにかかるストレスがないのが素晴らしいと思います。制作の労力が必要なのは普通ですが、それ以外の負荷が多い場合もありますからね。そう考えると、Tokyo Midtown Awardはアーティストが考える「こうあってほしい」形のコンペだと思います。

密度の濃い対話と新たな発見に満ちたアートプログラム

―― 2月に副賞のハワイ大学でのアートプログラムを経験されて来たばかりだとか。

後藤:はい。とても楽しかったです。実は「リゾートの印象が強いから遊びに行ったと思われそう」なんて思っていたんですが、海外が初めての僕のような人間だと、入門編という感覚ですごくよかったです。日本語が通じる所も多いですが、適度に英語も使える環境ですし。それから気候のよさがすばらしく、とても元気になれたので制作もはかどりました。

現地の学生を前に自身の作品を解説

現地の学生を前に自身の作品を解説

―― ハワイでアートを学んでみて、どんなことを感じられましたか。

後藤:ハワイ大学はとにかく広大で自然が多く、みんなが陽気で活発な印象でした。またアーティストや教授の感性に、自然に対する意識が非常に強くあることを感じましたね。僕のポートフォリオに学部時代に制作した蝶の蛹を使った作品があるんですが、鉄や糸、革の作品が並ぶ中でそこに反応する人がすごく多くて。作品制作や生きることが自然と密接に繋がっているんじゃないかと思いました。

―― 2週間のスケジュールの流れを教えてください。

後藤:平日はおもに制作と交流ですね。9時頃に学校に行き、自分用に借りたスタジオで18時、遅ければ22時半頃まで制作をしていました。作品は日本でつくったパーツを持っていって、現地で糸を張って仕上げ、最終日にカンファレンスルームに展示しました。もう一点現地で素材を買って制作を始めた作品は残念ながら完成できなかったんですが。制作といっても、他のアトリエにいるアーティストが来てくれたり、僕も見学させてもらいに行ったり、たくさん交流したいほうだったので毎日楽しかったです。学生の前で作品の解説をしたり、他のクラスの見学にも行きました。土日は美術館巡りなどをしました。

博物館でハワイの文化を学ぶ

博物館でハワイの文化を学ぶ

―― アーティストや学生と話をして、何かの気づきはありましたか。

後藤:英語でコミュニケーションすること。それによって自分の理解も深まっているようで意義深かったですね。あとは、制作中に自分では普通だと思っていたタッカー作業の速さをとても褒められました(笑)。

―― 現地では英語でコミュニケーションされたのですか?

後藤:はい。簡単にですが。僕自身のキャリアアップを考えれば英語は重要なのに、忙しいからと先延ばしにしていたんです。それをこのアートプログラム参加をきっかけに始めました。2週間の滞在期間中になるべく実践するようにしました。英会話だと一対一だけど、現地では数人で話してみて気づくことも多かったんです。例えば、自分は質問されると答えられるけど、聞き取りはネイティブに追いつかないとか。ただそこでありがたかったのは、今回はゲストとして質問される立場なので、僕がアクションを起こさなくても何かが起きてくれるプログラムだったことです。話しやすい環境で徐々に鍛えてもらった感じがあります。

博物館でハワイの文化を学ぶ

―― 現地で作品に使えそうなアイデアは見つかりましたか。

後藤:2つあります。1つは僕の作品を見た現地の学生が、作品と関連がありそうだと言って、マーシャル諸島周辺の古地図らしい「スティックチャート」を教えてくれたんです。ヤシの枝と貝殻で網目や図形をつくって島や海流の位置関係を示してあるんですが、それがおもしろくて。帰国してすぐ似たようなものを試してつくったくらいの収穫でしたね。もう一つはビショップミュージアムで見た木彫りの真っ黒なトーテムポール。作品からはそういう印象は感じないと思いますが、土着的でトライバルなものも大好きなのでインスピレーションにつながりました。

―― 最後にアワードに応募される方々へのメッセージをお願いします。

後藤:勝ちたいなと思って真剣に取り組めば、自分の想っている何倍も得られるものがあるコンペです。ぜひ、真剣に取り組んでがんばってください。

『夜 -1,5,7,9-』

『夜 -1,5,7,9-』※2017年4月16日(日)まで、MIDTOWN BLOSSOM ストリートミュージアムにて展示中の新作。
夜の街は綺麗だ。灰色の昼よりも、厳しい冬の寒さを超えてやっと迎えた春の夜には、外に出て暗がりと灯りを味わいたくなる。たとえ街の喧騒は止まずとも、春には夜と近くにいられる気がする。

後藤 宙/アーティスト

後藤 宙 Kanata Goto
アーティスト

1991年東京生まれ。2016年東京藝術大学美術学部デザイン専攻卒業後、同年より東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻在籍。

2014年
「ART MEETS ARCHITECTURE COMPETITION 2014」入選
2015年
「SICF16」スパイラル奨励賞
「ART MEETS ARCHITECTURE COMPETITION 2015」入選
2016年
「みなとメディアミュージアム2016」大賞